渋谷区富谷、代々木公園の新緑に囲まれたセレクトショップGrand Galleryは、国内外の厳選されたアイテムが並び、音楽ライブも行われる空間です。

そんな文化発信拠点であるGrand Galleryの改装工事を株式化会社鳶髙橋が担当することになりました。
今回は、「Grand Gallery Story」と題して、工事前から工事が終わるまでの過程、工事完成の様子を鳶髙橋代表の髙橋から解説。そして、Grand Galleryオーナー、アーティストと様々な顔をもつ井出靖さんから、工事の様子、現在開催しているイベントや空間の利用についてお話しをしていただきました。

※本レポートは動画内容を元に構成しています。

■出演企業 (Web Site)

株式会社鳶髙橋 ➢https://tobitaka.tokyo/

Grand Gallery ➢ https://www.grandgallerystore.com​

2025年で創業100年を迎える株式会社鳶髙橋

東京を拠点に、住宅や商業空間、景観デザインやプロダクトデザインといった多岐にわたる活動を続けている代表髙橋。

80年代の東京でライブシーンを造っていた、渋谷インクスティックの空間構成や、出演アーティストのプランニングを経て、創業96年の建築会社、鳶髙橋を3代目として引き継ぎ、2019年には自身の設計事務所  tobitakaデザインオフィスを設立しました。

鳶髙橋では、建築と設計と不動産の領域をシームレスに繋いた建築ソリューションを提供しています。
先人の英知と努力により築かれた地域の方々との絆、造ってきた町並みを守りながら、変わりゆく社会に適合した新たな東京をつくる活動を「東京文創」と定義づけ、活動の枠を広げています。

2025年には100年の節目を迎える鳶髙橋、「東京文創」の活動は留まることなく広がっています。最近では新築分譲集合住宅ジーエスグランド千駄木、大田区東馬込共同住宅を始め、ゼロウェストショップ「nue by Totoya」の空間デザイン、新宿2丁目町おこしプロジェクト、東宝映画るろうに剣心やWOWOW30周年記念作品「華麗なる一族」の景観デザインなど活動の幅を広げてきました。

音楽がきっかけでつながった、Grand Galleryの改装工事

髙橋:もともと私は音楽活動をしていて、Grand Gallery さんとのご縁がありました。

ある日、SNSを通じて店舗リニューアルの相談をいただきました。
アートのお話から始まって、慣れ親しんだお店の展望を伺った結果、空間の広がり方にフォーカスをしたデザインを提案しました。

井出さんとお話しをする中で、改めてGrand Galleryが文化発信地としてのハブになっていることを感じ、今回の工事は自分の中でも代表作にしたいという思いが沸々とわいてきました。

髙橋:Grand Galleryはライブや展示、イベントがさらに活発に行われるということで、その時々のイベントに合わせた、空間演出がしやすい、自由度の高い空間を実現させたいという思いを伺いました。

今までもアート空間として完成されていましたが、より洗練された、Grand Galleryにふさわしい空間をつくることが決まり、今回は「デザインしないことをデザインする」ことを意識しました。あくまで建築は人とのコミュニケーションをデザインするツールなので、クライアントとの共感を広げ、形にするということが大切だと考えています。

Grand Gallery改装工事を決めるまでの背景

Grand Gallery オーナー 井出靖さん

井出:ここの店舗に来てから10年経過していることもあり、改装工事は前からしたいと考えていました。そんなときにご縁があって髙橋さんと一緒に仕事ができるようになって、メインフロアを全面リニューアルすることにしました。

10年前はまだ西海岸の新しいブームが起きる前ではあったんですが、入口付近の部屋はロスのRTHというブランドが入っていて、壁にはMolluskっていうサーフのTシャツ、dosaなど、西海岸のブランドと同時に契約ができて、木や柔らかいオーガニックの雰囲気になっていました。

目指したのはクールでソリッドな空間

井出:世の中の流行りとは関係なく、自分たちのお店の雰囲気は、クールでソリッドなものがあっているんじゃないかと思ったのと、今着ているロスのGallery Deptもそうですが、Mid Century(60’)と今のものをうまく合わせているんです。そういったソリッドな空間に、シルバー、スペイシーなものをまぜたシャープな空間を作りたいと思いました。

司会:イメージした通りの空間になりましたか?

はい、素晴らしいと思って、毎日ここにくるとすごいなーと、楽しい気持ちになりますね。

天井は抜いてみないとわからないですが、実際に天井を抜いてみたら思った以上に天井の奥行をとることができて、防音も上手くできたのと、床もコンクリートをまっさらにしてタイルを貼りなおしているので、椅子に座っているとかなり高さを感じますね。

空間の音もとてもよくて、オープニングパーティーで音楽をかけたんですけど、針とかコードも変えたのでJazzの生演奏の音がよくて、かけて聞いているだけで楽しいので、早くコロナ禍が終わったら飲める場所に戻したいなと思ってます。

空間に余白があるからこそ展示物も引き立つ

よく来てくれるお客さんや、DJは、改装というより、「全部が変わったのでなんだかわからないくらいすごい」といってくれますね。改装後にスミスのポスター展を行ったんですが、初日は行列ができるほどで、展示物も見やすいと大変好評でしたね。

展示物のポスターは幅と高さがあるんですが、改造前の空間だと広さの問題でどうしても圧迫感が出てしまったのですが、今は空間が広いので、ひきで見られるのも喜んでもらったポイントで、ギャラリーとしての評価も高かったです。

アートはモデルが亡くなると高くなるのですが、スミスは現存している人物の中で希少性が高いので、見に来る方が多いんです。スミスが好きな人、アートが好きな人、デザイナーでポスターの刷り方を生で見たいという方もいます。アート的に美しいかなということで最初にスミスを選びました。

普通のギャラリーって、貸しギャラリーにしたり本人が祭事を主催したりするんですね。なので、場合によっては今日の夜展示が終わって、撤去してまた設営に入るといった多忙なケースが多いんです。自分たちは場所を貸すことをしていないので、ゆっくり準備をしてやりたいなと思っています。

例えば、お店は開けていてもメインスペースは解放しなかったり、次の展示会までお店が空いていないこともあります。次回はロスのGallery Deptという、日本ではもちろん世界の色々な方でも一部の人にしかおろしていない、手に入らないブランドの服を並べて、壁にはオーナーが描いた絵を並べます。(2021年5月開催)

司会:今後のスケジュールも埋まっているようですね

井出:はい、展示して販売をする予定ですが半年先まで埋まっていますね。改装する前から、コロナ前に決まっていたイベントも開催する予定です。内容は女性ものの洋服だったり、アートのポスターだったり画家の原画を販売したりと、しょっちゅう内容は変わります。

取り外せないはずだった、壁に書かれた絵画

Nathaniel RussellがMollusk Surf Shopのオーナーと初来日されたときにGrand Galleryにいらっしゃって、壁に絵をかいてくれました。是非その絵は保存をしておきたいと思っていたので現場監督に相談をしたのですが、壁に直接描いているので崩すしかないという話でした。

それもそうだよなと思っていたのですが、現場のスタッフが頑張ってくれたんですよね。絵の寸法を計って他の壁を切り取って、取り外しの練習をしてくれたんです。

「この絵を残しましょうよ」と盛り上がってくれました。

実際に壁を切ってみると、べニアのうすい板にコンクリートがのっていて、しかも2枚なので少しの刺激で割れるんです。鉄も入っている分ひずみが生じやすい。

絵を切った瞬間は、即座に2人が絵をキャッチして、すぐに寝かして額をつけてくれました。

Nathaniel Russell本人がインスタグラムで救出された絵をみて、「これは軌跡だ、嬉しい」ととても喜んでくれました。

今は入口付近の小屋になっている部屋に絵を入れているんですが、シンボリックに絵がきて、解放感があるものとソリッドなものができたなって思って、本当に感謝していますね。

声を掛け合いチームとして進めた、工事中の雰囲気

工事中は入口付近の小屋で仕事をしていたので、そこの部屋から人の出入りが全部見れていたんですけど、そういった機会はなかなかないですし楽しかったですね。現場で作業してくれている方々もすごい楽しんでいてくれて、意見を聞いてくれるので、そういった声に答えられるんですよね。工事後は一緒に乾杯もして、そういったことはしたことがないですよ。

現場がいいと雰囲気がよくていいですよね。本当にありがとうございます。

空間のポテンシャルを最大限に生かす方法

代表 髙橋慎治

工夫したポイントの一つは床ですね。当初、床を左官の仕上げにして、コンクリートの素地を出したようなマットな仕上がりにしようと考えていたのですが、工事中に分かったことがあって、左官仕上げに必要な厚みがとれないことが判明したんです。

どうしようと思ったときに、商材としてマットな仕上がりの塩ビタイルを見つけたので採用しました。そしたら空間の広さにあった仕上がりになりました。床材の切り返しラインがわからいようになっていて、すごくよくできた床だなと思っています。

天井はよく見ると、もともと軽天がある分、天井が低かったんですが、空間を広く取りたいというお話があったので、あえて軽天は見せるデザインにしました。

コンクリートの梁とスラブといって、コンクリートの天井がむき出しになる状況があって、そこに5cmくらいの厚みの吸音シートをはりました。

これを貼ったことによって防音の措置もでき、スピーカーから流れる音は中域が中心になって、低域と高域をカットしてくれているので、音量を上げたとしても普段の会話が聞こえやすい、最高の音質になりました。こういった聞こえ方も空間をつくるときに目指したところです。

司会:どれくらいのスペースが生まれたのか

髙橋:センチでいうと、60cm~70cmくらいです。床や天井、全部とりはらうと床から天井が高くなって開放的な空間を視覚でとらえることができます。

Grand Galleryの工事にはもう一つ工夫した点があります。メインフロアについたてが4つ設置してあり、キャスターが付いていることによって動かすことができるんですけど、例えばエントランス部分で4つ並ぶことによって仮設の壁ができる。

この壁によって、入口や向こう側の領域を見えないようにするといったこともできます。
展示会をしたときにも、展示するポスターを貼って場所によって移動ができたりする。こういう仕掛けがあって面白い空間になっています。

デザインをしないことによって生まれるデザインとは

デザインをすることと、しないことがあったとしたら、デザインを沢山しないことによってそれがデザインになるという空間を作りたかったんです。この空間でやりたかったのは広さをとることと空間の高さをとることと、開放的な視界をつくること。そこに重点をおいたときの仕掛けとして、もともとの壁を作らないで移動式の壁をつくる施策をしました。

建築を頼まれたからつくる、言われたことをやるだけではなくて、空間を使う人達と一緒にどういう風にしていきたいか、どういうストーリーがあるかというのを設計するのが建築の空間をつくることだと思っています。

先述の、左官仕上げのモルタルではなく塩ビタイルを採用したのも自分たちで話し合っていきました。メーカーの商品は進化していますから、僕らは現場での知見を活かしてどれを使ったらどうなるかを逆算して提案することが大事だと思っています。

僕らは機能性がいいものを考えるのではなくて、空間でどんな体験ができるかを考えて全体をまとめることが大切だと思っています。

アフタートーク

髙橋:この度はありがとうございました。

井出:素晴らしい空間をありがとうございました。やはり、居心地がいいという人がすごい多いです。

髙橋:そのように言ってもらえると一番うれしいです。

井出:こんなに広かったっけ?という話もされるし、奥の部屋もぶちぬいたの?と質問をもらうんですけど、違うよといったり、広くて気持ちがいいですよ。楽しいですよね。

髙橋:時間は短い時間でやりましたよね。打ち合わせから工事完了の間。

<全行程(約2ヵ月)>

2月初旬 事前相談

2月20日 基本設計立案開始

3月22日 着工

4月8日   竣工引き渡し

井出:あっという間に違う空間になりました。

髙橋:フレキシブルに空間が変わるというテーマだったから、本当に毎日使い方が違うお店をつくるというのは初めての経験で分からなかったんですが、井出さんの企画力とプロデュース力が源泉にあって、どういうふうにしたいというのが明確にしてもらったので分かりやすくつくれたし、僕らの提案もいいねといってくれて良い空間ができたと思います。

井出:クールでソリッドな空間をつくることで緑との調和がうまくいくと思っていなかったので、奥の部屋もそうだし、入口の方もなおしていきたいですね。まずは一つずつゆっくりできたらいいなと思います。

渋谷の音楽、ファッション文化を支えてきたGrand Galleryが、より洗練された自由度の高い空間として生まれ変わり、多くの人々を迎え入れる場所となりました。

壁に描かれた絵画の救出、空間をできるだけ広く感じてもらう工夫、創意工夫を凝らしてクライアントと一緒に形にした集大成です。

限られた空間には音楽やファッションの歴史、工事の工夫、訪れる人の思い出などが詰まっていました。

Grand Gallery ➢ https://www.grandgallerystore.com​

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