株式会社鳶髙橋は社会学(地域社会学)・政策学(地域政策学)を専門とする伊藤将人氏とともに「cross-東京文創-」プロジェクトを始めました。

「cross-東京文創-」は対談やイベント、映像アーカイブなどを通して過去と未来、学問と現場の往来により多角的視点でまち・幸せを考え実践する機会を提供していきます。今回はprologueとして、まちづくりにおけるKPIやモビリティ・ジャスティスにも触れながら地域と都市形成についての対話をお送りします。

動画「【cross-東京文創- vol.1-1】社会学×建築|-talk session-」はこちら

都市と地域の相互作用と異なる視点

2023年11月に開催されたバーニングジャパンで制作したUFO型DJブース

伊藤氏:鳶髙橋さんのWebサイトで記事を拝読して、UFO型DJブース制作のようすを知りました。(「バーニングジャパン」に初参加、2ヵ月で実現した夜空に浮かぶUFO)自然のなかにUFOが現れて、しかもそれがDJブースになっているという発想を実現するのは簡単ではないですよね。既存の価値観と新しさが融合して場が生まれる、まさに「都市文化」の要素が詰まっていると思います。

髙橋:私たちは自分たちが楽しみ、それに賛同する仲間が集まってくる、いわばストリート感を持って活動しています。その波動を乗りこなしていくうちにさまざまなコトにつながって、おもしろさが生まれていると思います。

UFO型ブースをその場にいた12人で持ち上げるようすはまさにクライマックス

伊藤氏:特にUFO型DJブースを12人で持ち上げた瞬間がとても印象的でした。その場にいる人たちがひとつのものを持ち上げているようすには、コモン・共同性を感じました。

髙橋:伊藤さんのおっしゃる通り、12人でUFO型ブースを掲げるに至るプロセスは、まさに都市のつくり方にも通じると思っています。コトが起きるために必要なのは、やはり人なんですよね。多様な視点をもつ人が集まることで自然発生的にアクションが起きるので、都市と地域には差異が生まれるんです。

各地で開催されるワーケーションに参加する代表髙橋

2019年頃から各地でワーケーションに参画し、深く地域に関わるようになることで都市とは違う世界をみてきました。特に地域において、後継ぎなど人口に紐づく課題は明確でした。都市は人が集まることで自然発生的にまちがつくられる一方、地域では後継ぎや地域づくりに熱意をもって向き合っている印象があります。

伊藤氏:地域と都市を行き来すると、多角的に物事を捉える重要性に気付かされますよね。地域活性に携わってる方や国や自治体の政策は多様ですが、対象の切り取り方が一面的という意見もあります。たとえば「活性化しているか、していないか」など、物差しが非常に少ない。そもそも活性化が必要かという議論もできるはずです。各人が持つ「善」のあり方の多様性が許容されていないのはもったいないですし、その点は都市を参考にできると考えています。つまり、都市対地方ではなくて、都市と地方の共創という意味でお互いに学びあえると思います。

まちづくりの落とし穴とKPIとしてのウェルビーイング

鳶髙橋オフィスにて、まちづくりのKPIについて議論が活発化した

髙橋:都市と地域の協創という観点からすると、たとえば徳川幕府により意図的に人が集められ江戸が発展したように、人工的な起爆剤から地域社会が形成され文化が生まれました。地域もその土地の持つ社会形成や文化的背景は当然異なります。そういった背景を考慮せずに駅前のロータリー化、無電柱化、道路の拡張、商店街の整備など都市型のインフラ整備と同じような変革でまちをつくると、人が少ないことでかえって景観が寂しくなるなどミスマッチが起きます。

伊藤氏:そういったミスマッチは、まちづくりにおける計画に起因していますよね。国も政府もまちづくりについて明確な計画を求めていますし、目標を計画化するパッケージは増え続けています。地方創生では、「人口ビジョン」という戦略を立てることが求められます。「バックキャスティング」ともいいますが、ゴール地点を決めて重要業績評価(KPI)に基づいて今やるべきことを洗い出していくのです。

不透明で不合理でリスクが高まる時代だからこそ、不安に対して目標など合理性を求める傾向がありますが、だからこそ計画通りにことが運びづらい側面があります。たとえば移住者数をKPIにする場合、誰を「移住者」とするかは決められておらず、わかりません。県内の方なのか東京の方なのかなど、正確に計画に落とし込むには非合理的要素が多分にあります。目的至上主義は合意形成を図りやすいといったメリットもある一方で、いつの間にか手段が目的化してしまうケースも目にします。本質は、その後にあるはずなのにです。

髙橋:その土地に住む方々の思考ですとか文化的背景などを考慮するのはもちろん、幸福度の高さ、ウェルビーイングがやはり大事になります。都市づくり、まちづくりにおいては住まう人の幸せを考えた設計までが求められますよね。

地域の課題はそこに住む方々にとって極めて身近な問題で、さまざまな暮らしに直結するからこそ、国や地域の政策に対する関心や課題解決に向けて人が動いている。地域住民の切実なエネルギーの渦巻きを感じます。だからこそ計画自体にウェルビーイングの観点をいかに組み込むかが重要なんですよね。

2023年7月「月の都千曲おばすて納涼祭り」にて、和の文化を感じるイベントを主催

伊藤氏:ウェルビーイングを考える際に、日本国憲法における「文化的で最低限度の生活を営めること」の「文化的」とは何か考えてみることは、いま改めて重要です。ここでいう「文化的」とは、生きるために必要なものに限らず、アートや音楽、観光といった生活の質を高めるものに目を向ける必要性なのだと思います。また、それは時代によっても変化するものでしょう。

建築についても一部を除くと、こうした文化的側面はさらに考慮する余地があるように思います。表からみえなくても梁にどの木材を使うか、どの照明を使うかといったこだわりは、まさに文化的といえます。

移住政策においても、工場誘致やUターンで人を地域に集める構想は現在先進諸国における社会では完全に適応しないため、この文化的な側面について考える必要性を感じます。

都市の文化形成、ウェルビーイングを高めるための要素に対して私は学術的にアプローチをしていますし、髙橋さんはストリート感を持って建築現場からアクセスしています。おそらく、それが21世紀的な価値の本質なんだと思うんです。

江戸から紐解く都市形成と地域戦略

参拝者の商売繁盛や開運招福を願う、江戸時代から続く「酉(とり)の市」

髙橋:文化について考えるとき、人々の「感情」という視点は切っても切り離せないです。文化は、人々の心の揺れ動き、意識から始まっていくからです。感情を表現するところからアートや表現といった文化が生まれ、都市文化につながっていく。

徳川幕府による江戸の発展もそうです。何もないところからさまざまな感情を持つ人々が集まり、都市が形成され江戸文化の華が開きました。

広重『東都大伝馬街繁栄之図』、桜井. 国立国会図書館デジタルコレクションhttps://dl.ndl.go.jp/pid/1307610

江戸のまちは世界で初めて、100万人の都市を形成していました。それだけ人が集まるとアクシデントも起きます。多くの木造の家屋が密集したことで幾度も火の手があがり、ときには浅草から芝に至るまでの大火事が発生しました。火の脅威を解消するにあたり「いろは48組」という江戸文化において重要な火消し組織が誕生しました。江戸町火消しは火を消すだけでなく、火がないときには今でいう地域のコミュニティマネージャーとしての役割があり、祭事を司るなど江戸庶民として江戸の粋を体現していました。こうした火消しもそうですし、大相撲、歌舞伎、花柳界(かりゅうかい)といった江戸の文化を象徴するような表現者が続々と生まれていきました。

人口がもたらす影響でいうと、地域におけるまちづくりは形が違って当然だと思うんです。地域に人を集めようと活動する際も、地域に根ざして営む人を増やすのか、観光客を増やすのかといった側面を切り分ける必要があると思います。

地域の方と協力し、藁を収穫している代表髙橋

観光に関して言及すると、地域に訪れたい魅力のひとつに一次産業があると思っています。田植えなど農作業は私はもちろん、都市に住む仲間からしてもとても関心が高く、幸福度が高い観光資源だと思っています。都市の戦略と地域戦略において、自分たちでも気づかないような地域資源を、人を招くことで気が付くことに価値があるのではないでしょうか。

デジタル社会に台頭したモビリティ・ジャスティス

大学教員としても活躍する伊藤さんから新たな議論へ

伊藤氏:髙橋さんのおっしゃる通り、人口は都市形成に密接に関わっています。そして、時代が変わって交通、デジタル的なインフラ状況が変わることで環境・社会的な価値観も変化し、世の中が流動的になっているといえます。

モビリティの発展によってワーケーションやノマドワーカーが成立するようになり、交流人口、関係人口といった概念が確立されてきました。住まうことも定住主義からノマド主義に変わってきているという議論があります。

一方で、私たちは固定主義的、定住主義的観点で物事を考える傾向にあります。地域、家にはすべて明確な境界、囲いがあると思いがちですが、我々が明確だと思っていた過去は透明性が高く、流動性が高い生き物のようなものであることが研究によりわかってきました。

参加者と協力しながら田植え体験、慣れない作業に戸惑いながらも充実の時間を過ごす

農業に関しては、日本には元々「総有」という意識があります。今でこそ、土地は個人単位の所有権で区切られていますが、昔は、みんなで森を管理をして炭をつくり、木を活用して家を建てたりしていました。こうしたコモンの観点やノマドの観点から、自分たちのまちのあり方を捉え直してみると、再定義が進んでいきそうです。

ここで共有したいのが「モビリティ・ジャスティス」という概念です。モビリティの公正性、モビリティの正義という意味なのですが、実はモビリティ、つまり移動するということは人々が思ってる以上に不公正で、不均等で政治的で、社会的で、経済的なんです。あえて批判的にいえば、ワーケーション政策や観光政策にもそのような側面はあります。

コロナ禍で顕在化した部分もありますが、リモートワークができる人びとがいる一方で、肉体労働を基本とするブルーカラーやエッセンシャルワーカーと呼ばれる病院勤務の方などは移動ができません。つまり、移動できない人々の労働によって、移動できる人々のモビリティが担保されているといった、移動をめぐる格差や機会の不公平性が現代には存在します。こうしたモビリティの性質も問うていくのがとても大事だと思います。

人の意識が都市をかえる、世界も変える

2024年2月にグランドオープンした「ゲストハウス旅館相生」のコンベンションルーム

伊藤氏:最後に建築の話に戻りたいと思いますが、建築領域で私が大事だと思うのは、建築は非人間的なものと日常的に触れ合っているという点です。

昨今、社会科学の潮流としてあるのが「我々は、人間を大事にしていく必要がある一方で、人間を特権化しすぎてきたのではないか、もっと非人間的なものを重要視し、非人間と人間の関わり合いに着目する必要がある」という考えです。

空間ひとつとっても、材質によって人のコミュニケーションは変わる可能性がありますよね。今まで人とのコミュニケーションには言及しても、非人間的側面には光があたっていませんでした。このように、西洋主義的に人間を特権化しすぎてきたことを反省する議論が起きていますが、そもそも日本は非人間的なものを重んじる文化があります。神様でいえば、八百万の神なわけです。

建設業、建築業はデジタル化が遅れているという話もありますが、デジタルで進めたほうがいいものと手作業がよいものを見極める審美眼が求められますよね。

花園神社の鳶頭として伝統や文化を代々引き継いてきた代表髙橋がAIとの協創を語る

髙橋:デジタル化がより進むことによって、本来は手作業でやった方がいいものまで熟練の技を習得する機会が低下し、担い手が不足する懸念があります。手仕事で脈々と培ってきた伝統や無形財産をどう守っていくかというバランスは考えさせられます。一方で伝統や文化はデジタルとすごく相性がよくて、文化を斬新でおもしろい魅せ方で伝えることもできると思います。

AIと人が協奏したワクワクする仕掛けに興味を持っていただいたり、多様な人が集まってひとりでは考えつかなかったアイデアをAIと人が創造していくと思います。また土地に縛られずにデジタル化がもたらすノマド的な就業環境を設定することも可能です。

「トレイン人事ワーケーション」で電車のなかで面接、採用が決定した新入社員

先日電車で「トレイン人事ワーケーション」と題して面接をおこなった方も2024年4月から入社をしてくれました。

伊藤氏:「トレイン人事ワーケーション」面白いですね。考えてみると会議室で面接をおこなう必要はありませんね。

髙橋:「別に河原でも、どこでもいいよ。よし今やろうよ」といったように、堅苦しくないスタイルから企画が生まれました。周りの人に恵まれているからこそできると思います。私の場合は伊藤さんもそうですし、一緒に働いてくれる人たち、関わる人たちが持続的に幸せでいられる世界をつくりたいんですよね。経済的自由、思想的自由も大切なテーマですが、その先にあるものは関わる人たちの幸せです。

伊藤氏:株式会社という形も、地域も本当はそうですよね。ファンを大切にする姿勢があるかどうか。本質的にいえば、好きだからこそ、その地域に住んでるとかも同じ原理ですね。

髙橋:やはり最後は人ですね。人の意識が都市を変えるし、世界も変える。景色も変えてくれると思うんです。

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