海外アーティストや著名人も訪れていたGrand Galleryの改装を記念して、建築、音楽、ファッションや働き方、幅広いテーマでトークセッションを行いました。

前編では、Grand Galleryが改装に至った経緯や、テクチャー株式会社山根社長が考える業界への課題感やIT技術を活かした業界変革の可能性についてお話しいただきました。後編でも動画でお送りした内容をご紹介します。

■出演企業 (Web Site)

株式会社鳶髙橋 ➢https://tobitaka.tokyo/

Grand Gallery ➢ https://www.grandgallerystore.com​

tecture株式会社 ➢ https://www.tecture.jp​

オンラインを通して新しい世界を体験する

髙橋:井出さんはnoteブログでの自伝が好調ですけど、何でnoteを選んだんですか? 

井出:「Yasushi Ide」という名前でnoteブログやってるんですけど、何年も前から自伝の話はよく聞いていて、飲んで話していると周りから「絶対出したほうがいい」ともいわれて執筆を進めてたんですよ。去年、7月19日誕生日が60歳にの節目でして、途中まで書いていたんですけどなんか面白くなく、、、というのも自伝は武勇伝っぽくなってあまり良くないかなー、と。そんな時に、南さん(Grand Gallelyのスタッフ)が「noteの方が色々出来そうですよ」って教えてくれたんですよ。

確かにnoteだとYouTube を貼ったりとか、SNSに繋げたり色々充実するんですよ。最終的にはそこから本にしようと思ってはいるんですよ。

Twitterも面白いなと思っていて。というのもの、1988年にクラブクワトロっていうクラブハウスが渋谷に出来て。その年から5年間毎年、対バン形式で行う”7days”っていう9月の1週間最低でも2バンドが出演するイベントがあったんです。

そこではスチャダラパーと小沢健二が「今夜はブギーバック」を披露したり、ゴンチチとスカパラとか、普段お目にかかれない共演が見れたりしたんですよ。そのイベントのフライヤーを少し前に集めていたんですけど、初回イベントのフライヤーだけが見つからなくて……そしたらTwitterでメッセージが来まして。その内容が「知人経由で井出さんがフライヤーを探していると聞いたんでこの画像どうぞ」とメッセージいただきました。今ってそういうことがクイックに行われて面白いですよね。

山根:井出さんのそのようなお話って、今の人たちがやらなきゃいけないことだと思っていて、実はITを理解してる人ってまだまだ少ないと思うんです。

色々なことがクイックになってきて、その繋がりが仕事とも繋がりますね。それに何か情報発信するとなると本を出す。本を出したい人っていますけど、noteで出す価値もあって、その辺りの理解度が必要ですね。

今テクチャーでやってる情報資産をデータベース化する意味を理解していただける人と理解いただけない人って二極化してるんですね。それを踏まえてITリテラシーを高めるのも僕らの仕事だと認識しています。

例えば、データベース化されると差別化が出来ないっていう話があるんですけど、差別化云々というよりは自分たちのデータを公開することで得られる情報もあるよといことですね。

今の井出さんのお話で本を出してからnoteを書くのではなくて、noteを書いてから本を出版するという流れとかもそうですよね。本来noteを出してから本を出すと、本が出る時には内容がnoteに出ているんですけど、本を出す時には井出さんのフォロワーからなんとなく予測できるじゃないですか、さらに本を出す時にはファンは増えてきているはずなので。本を売る時にそういう作り方って先行で内容を出してるからだと思いますよね。

建築でも、先に情報を出すことでファンを作って、後で帰ってくるよっていう世界観を出していきたいなっていうのがあります。そういうのを実現するのがテクチャーのサービスの1つなんですけどね。

井出:僕も色々情報公開してるけど、投資ばっかりしてて全然回収しきれてないんですよね(笑)

山根:いやいや、めっちゃ回収してますよ(笑)

井出:noteで傑作が出来たと思ってもあんまり見てもらえなかったり、面白いことが書けなかったと思ったら結構な人が見に来てくれたりとかもあって面白いですよ。

あと、僕らが出してる本が2冊あるんですけど、Tシャツの本とポスターの本とで。 T シャツの方に関しては南さんが編集を行ってくれました。もう一つは小野英作さんというデザイナーがいるんですけど、彼が全てフライヤー、レコードジャケット等、細かいところまで手がけてくれたんですよ。そうすると会議はないですし、打ち合わせもないです。

作業としては彼にメール送って、「この本のフライヤー作ってください」と伝えるとデザインが上がってくるという感じです。そしてそれを入稿するっていう感じで作ってます。

ポスター展、Tシャツ展と二回イベントやっていて、動員記録を持っているのですが、インスタグラムでアップをしたら、マークジェイコブズにブックマークしてもらったみたいで、興味を持った彼からメッセージが来て僕の商品を海外でも流通させないかとなって。

そのままイギリス、オランダで展開することになりました。メッセージのやりとりだけでそこまで出来ちゃうのはいいですね。

山根:確かに、この本見ていると欲しくなりますね。大量に売ってある中、こういう紹介の仕方はうまいですね。出てくる人の名前もすごい人ばっかりで、、、でもそれって発信を続けているからメッセージが来るんですよね。

井出:(レコードを手にとって)こういうのって普通だとミュージシャンはプレス会社に頼んで完成品が届くんです。ただお金が意外とかかるんですね。ただ、僕のはレコードの円盤と周りのジャケットを別の業者に頼んでいるんですね。それぞれがここに届いて、僕が一枚一枚完成させてるんですよ。その方法の方が安く済むし、相手のことを思いながら作業するのが楽しいんですよ。

実はこのレコードfeat.アフリカ・バムバータなんですよ。彼はHIPHOPの創始者で、本当にすごい人で。この組み合わせだけでもすごいんですけど、何がすごかったって、ここにセーターもあるんですけど、それは編み物☆堀ノ内さんっていうすごい作品を残す人がいまして、その人の受注展覧会をここでやった時にアフリカ・バムバータのセーターをかざしている写真をインスタグラムにあげて、@afrika_bambaataa_officialって書いたらいきなり彼本人から「こんなの見たことないぞ」ってメッセージが来たんです。

「クレームにでもなったら大変だぞ」と思ってたら、「一点物のすごい作品だ」と喜んでいただけて、やりとりを続けていたら、自分の音楽の話とかもして、そのまま彼のマネージャーを教えてもらってCDを一緒につくることになりました。

井出靖 / Afrika Bambaataa『I’m Thinking, I’m Spacing』

人生の中でアフリカ・バムバータと音楽を作るなんて思ってもいなかったのに、こうやって実現して。こういうのを踏まえると、どこで何が生まれるかわからないのも最近のこういう出会いかなって思います。

自分たちのお店もそういうふうになっていった方がいいんだろうなって、好きなように自分たちでブッキングできて作れるんで、そういう空間は完成させたいですね。

あと考えているのはオンラインでイベントを開催すれば、このご時世でも地方の方も外国の人も参加しやすいのでいいかなって思います。 

お店作りに関してもロサンゼルスとかはお店でもビール飲みながら接客するんですよ、喉潤す感じで。そんな空間になれたらなー、って思いますね。

Gallery Dept.って奇跡みたいなことが起きていて、最初はバージルが注目したんですけど。というのも、彼らのお店の斜め前が高級スーパーで、そこにバージルが買い物に来た時に「なんだこのお店」って覗いたら彼らのお店が作ったばっかりの時で、そうしたらすぐパリコレにそのパンツを履いて出てきて 、今ではフォロワー1000万人くらいの人とかも着ているんですよ。

でも誰にも「1円もまけない、ディスカウントしない」と徹底しているんですよ。アメリカ、ハリウッドってすごい額を使うじゃないですか、そういうのを目の当たりして来たんですよ。

例えば自分だったら音楽を海外で売るのにまず海外のレーベルと契約しなきゃなって思ってたんですけど。この私の去年の11月に出した一曲36分ある最新作も、まず販売してくれるところが欲しかったんですけど、オランダのラッシュアワーっていうレーベルが全部買ってくれてヨーロッパの供給が決まったみたいな。そのやりとりもメールだけで。

『Cosmic Suite』

山根:すごいし、早いですね。

井出:最近そういうのが多くなってきていて。自分たちの作ったものを売る時には流通を通してなんとかできるんですね。「とにかく自分で作ったものを自分で売る」それでいいって感じですね。

山根:建築業界も「作ったものを自分で売る」ってなるといいですよね。

髙橋:ウチの会社はレガシー企業なんていってもらっているんですけど、ゼネコンの下請けずっとやってたんですね。そこに何か先に繋がることがあるかというと、何にもなくて……自分たちで作ったものを欲しい人にダイレクトに伝えていかないと、多分僕らの未来はないかなあと思いますね。

山根:僕もそう思いますし、そこに買いたい人だけでなく、売りたい人が出てきているっていうのが本当にいいですよね。今は誰でも個人で発信できる時代になって、それをうまく使い倒したら個人で売れる時代ってところまではなんかすごく分かるストーリーだなと思ったんですけど。買いたい人売りたい人がどんどん出てきて、それが倍々ゲームで大きくなってきてっていうような世界観だと思いますね。

建築とかも売りたいってなっても一品生産物じゃないですか、そこを何か変えていったら面白くなるのかなって。受注生産で、誰かのために作るのも大事なんですけど。

最近増えてて、特にコロナウイルスが流行に伴い、郊外とかで飲食店を作りまくっている人がいるんですよ。それをクラウドファンディングでお金集めて自分でやって、いうのがあって。今までだったら受託して誰かのためにお店を作っていたのが、今は自分で先行投資して作っていくことが増えてきたのでなんかそういう世界観が増えて欲しいですね。

オンラインが作る新しいコミュニケーション

司会:今後、グランドギャラリーの向かう先や計画してることはありますか?

井出:向かう方向としては、さらに自分たちにとって新鮮なものをどんどんやってきたいですね。

僕だったら僕自身が新鮮であるし、新鮮なことも提供してかなくちゃって言う自分に対する戦いの方が多いんですけど。あとそういうのって楽しいじゃないですか。そういうのと出会って紡いでいくことって。

実はおととい母が亡くなって、昨日の4時ごろに心配してメールしてきてるのがGallely DEPT.のジョシュ・トーマスとアフリカ・バムバータが僕にずっと何度も「大丈夫?」って送ってきてるんですよ。僕はそういう世界になるなんて思ってなかったから、自分は音楽を通じて高めていかないと消費されてしまったらだめなので、そこはすごい考えてやっていきたいなっていうぐらいです。

まだ旅の途中なので、「今年はこうだ」とかじゃなくて、世の中ってこんなにすぐに変わっていくじゃないですか。自分たちがフレッシュじゃなかったら絶対につまらないので。もしフレッシュじゃないとしたら遅れてるってことだと思うんですよね。そこだけはすごい注意してます。まあ好き勝手、好き放題生きてきたんですけど(笑)。 

山根:車のテスラってじゃないですか、車も買ったらアップデートできなかったんですけど今テスラって基本のハードはあるんですけど、ほとんどの仕組みはソフトで出来ていて、アップデートをしたら性能も上がるってことが実現していたり、時代に合わせて車が勝手にアップデートされる仕組みになっているんですよ。

じゃあ、建物はどうかというと、中々アップデート出来ないんですけど、テスラみたいにソフトで色々変わっていけるっていうのもあってすごく今のスピード感に合う感じですよね。なんか今その話と井出さんのお話がつながったかなって思って、勝手に繋げちゃったんですけど(笑)。

井出:建物自体は変えられなくても世界観は変えられますもんね。

山根:確かに、その時の建物の考え方って大事ですね。

井出:ちょっと色々変えてきたんですけど、一つの箱にしてみようかなって。

例えば中央にバーカウンターがある日だとか、突然日本酒に詳しい人に出会っちゃったりするから、お酒の雰囲気にお店を変えても面白いじゃないですか。

もう亡くなられた勝山さんって方も、ある日フェイスブックを通して内田勘太郎さんがうちでライブやるっていうのを知ったみたいで、「初めましてですけど、ライブ見たいです」っていってくれたと思ったら実はうちのマンションの斜め前に住んでいて、そっから週4回飲むようになったりして、そういう風な出会いもあったりするんで、それを活かしていきたいし、丁寧に売るというのを大事にしたいですね。やっぱり僕らはアート、ミュージックやレーベルも始めたくらいなので、そういう共通項で丁寧に売るっていうのを大切に。やっぱりさせていただいてる身なので。

髙橋:建築も文化も音楽もコミュニケーションがデザインされて人の動きをデザインされてるようなそんな時代になっているのかなって思いますね。

井出:まとめてもらってありがとうございます(笑)。

司会:文化の発信地にふさわしいこの場所が、今月末には解体、新しい空間になっていくので、アーカイブとして映像に残るイベントができて本当によかったです。御三方ありがとうございました。 

施工を振り返って 髙橋慎治

空間の広がり方について話し、どこまでも考え続けた。 デザインをしないことがデザインになると思っていたため、 フィードバックも、ほぼ思っていた通りになっていました。 限られている空間容積は思っているよりコンパクト。設計時はPCの前だけで完結する世界になりがちで、机上の平面図に間仕切りや家具などをたくさん並べたりすることはやめて、見えてこない限られた空間も削ぎ落としたかったので、仕上がりは引き算の美学のような感覚でした。

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