株式会社鳶髙橋コミュニケーションデザイナーの井口啓太です。昨年に引き続き2024年も「SPACE DISCO」という「テーマキャンプ」で「バーニングジャパン」に参加しました。今年は象徴的なモニュメントであるUFO型DJブースのバージョンアップに加えて、全高3m60cmの踊れる移動式ロボットという、これまた不思議な作品が誕生しました。

「バーニングジャパン」とは、アメリカ・ネバダ州で毎年開催されているバーニングマンのビジョンを受け継ぐ日本のローカルイベントです。一般的な野外イベントと違い「傍観者にならない」で誰もが表現者として「売買ではなく与え合うこと」で関わりあいます。アート作品やパフォーマンス、音楽のほか、食べ物に至るまで参加者同士が提供し合う、ひとつのまちのような空間があります。作品や出し物といったプロジェクトを一緒に創り上げ、一緒にキャンプする仲間を「テーマキャンプ」と呼びます。今回もアフロマンスさんこと中間さんがひきいる「テーマキャンプ」に参加をさせていただきました。(参考:バーニングジャパン公式Webサイト)

そんなGIVEの精神に溢れる現場で何が起きるのか。私個人としては初めての参加となりましたが、正直「今の自分にはこの時間が必要だったんだ」と思わず飛び跳ねてしまうような気持ちの高まりと、視野の広がりを感じることになりました。

大自然の景色とともに味わったGIVEの幸せ

ダイナミックな自然を感じる嬬恋牧場の風景に心躍る

準備のため、イベント前日に嬬恋牧場へ訪れた私たちを待ち受けていたのは広大な自然でした。広がる草原と遠くにみえる山や空に日常の雑念は消え、早くも心洗われる感覚がありました。

初参加の緊張を胸に準備開始を待っていると、受付付近で困っている女性と出会いました。Webサイトでの入場券の購入がうまくできないとおっしゃる方の手伝いをしたところ大変喜んでくださり、心が温かくなりました。どんなに小さなことでもGIVEの精神は相手だけでなく自分の心をも満たしてくれるのだとあらためて実感する出来事となりました。

自然に囲まれた、いわば原始的な生活を強いられる場においてはGIVEの精神がますます重要となるため何か自分にできることはないかを常に考えるようになりました。本来人間が持っているはずの、共同性を高める重要な要素であると感じました。多忙な日常においてなかなか発揮しづらいものですが、忘れずにいたい大切な学びを早々に得ました。

「実現したい!」の本気が集まり生まれた熱狂

UFO型DJブースの骨組みに白布を貼り付けるていく、筆者:右

メンバーが集まり各々の荷物が運ばれた際、その物量に驚きました。事前につくられたUFOやロボットのパーツ、組み上げに必要な道具や足場、ライフラインを支える食材や飲料、キャンプ道具。イベントのために大人たちが本気でつくり、本気で遊ぶ。そんな時間を共有できることの喜びを覚えつつも、1日で完成できるのか一抹の不安を感じました。

安定性をたしかなものとし、安心して楽しめる場をつくり上げていく

設営が始まると、さっきまでの不安がうそのように消え去り、準備がテキパキと進んでいきます。鳶髙橋チームは建築の知見を活かし、足場の設営を速やかにおこないました。UFO型DJブースをみんなで足場の上に持ち上げる際は代表の髙橋が安定性の確認と設置位置をアドバイスするなど自らの持つスキルをGIVEしていました。

それぞれが自分にできることを探し「手伝いましょうか?」の声が飛び交う現場はコミュニティとしての一体感を強く感じました。私は普段体を動かす機会がないので体力疲労はありましたが、気持ちのいい汗をかいていることに気づきました。これまで培ってきたスキルを各自が存分に発揮し、ひとつのものをつくり上げていく過程に人の温かさや頼もしさ、安心を感じます。オンライン上ではなく、対面し目の前で繰り広げられていることにより強いつながりを感じ、人間が社会的動物であること、助け合うことが人間の最大の強みであると実感しました。

一瞬で集落のような安らぎが生まれる環境

火を囲み、食べ、語らいのひと時

準備がひと段落し、焚火を囲みながら夕食をとりました。食事を担当してくれる方も事前準備からかなり気合が入っており「バーニングジャパンは食が大きな役割を占めてるから頑張りますよ」という言葉の通り、心躍るようなメニューばかりでした。思いやりと情熱が込められた食事を一緒に作業をした仲間と楽しむ時間は格別です。イベントの期待感や1日の振り返りをしていると、数時間でこんなにきずなが生まれるものなのかと驚きました。何もない環境で自然と役割分担をしながら過ごしていると、ひとつの集落にいるかのように感じてきます。初対面の方ばかりでしたが、自分を解放できる心地よさを覚えました。

火を囲うことで自然と円形に集い、互いの顔をみながら語り合う。こういった営みは遠い昔から続くファシリテーションの形ではないでしょうか。普段は別々の場所で暮らすメンバーが一堂に集い、ひとつの目的のためにお互いを開示しながら理解しあい、結束を強めていくプロセスはつながりが希薄になったといわれる現代において大切だと改めて感じます。

ウソみたいな現実をフィーリングの合う仲間とおもしろおかしく創造する

2日目、夜から始まる本番に向け作業は進む

一夜明け、都会とは異なる冷たい風を感じながら本番へ向けた準備が加速していきます。昨日に増してお互い声をかけあい、息のあった作業が進みます。そこには手を動かしながら日々の苦労や悩みをシェアできるほど心を開放している自分がいました。仲間と話していると、そんな悩みも笑いとばせるような不思議な力を感じます。UFO型DJブースに白布をピンと張る作業は、心のしわとなっているストレスを解消する象徴にさえ思えました。

心も声も変わるほど心が動いた夜

制作チームをリードしたメンバー、左:髙橋、中央:中間さん、右:丸谷さん

夜になると協力して組み立てたUFOに光が灯りました。制作に携わった作品が夜に幻想的な存在感をもって鎮座しているようすをみていると思わず涙しそうになりました。広がる自然環境に人間が協力してつくり上げた作品が並んでいる光景には圧倒されます。人工物と自然の融合はまさに人間活動の縮図であり、その象徴がUFOともなるとさらに幻想的で浮世離れした畏怖の念さえ感じました。

光と音楽に誘われて他ブースからも多くの方々が踊りにやってくる

UFOの上で繰り広げられるDJからは、体が自然に動くほど心地よく気分を高める音楽が流れます。居合わせた仲間たちと踊り、笑いあい、最後には握手を交わして別れる。海外から参加をされる方も多く、言葉が通じないけれども「バーニングジャパン」という共通理念をベースに心が通じ合う時間を通して、大げさにも世界平和はこうやって生まれるのかもしれないと感じました。自分の声量と発した声の明るさに一瞬驚くほど、その場を全身で楽しんでいました。

新しいつながりのヒント

初制作のロボットのなかでバイオリンを演奏する参加者

夜になると各個人が自己表現の場としてパフォーマンスをする姿が多くみられました。ファイヤーダンス、歌やバイオリン演奏など、自ら持つ個性や創造性をもって「バーニングジャパン」を楽しみ、他者の個性を受容し対話や共創が生まれていきます。空間をともにする他者への信頼と感謝、尊重、連帯意識がある空間だからこそ自分を思いっきり開放できるのだと思います。

ともに喜びの空間やきずなをつくり上げた心強い仲間たちと

「バーニングジャパン」に参加したことで、日常生活では得られないような創造的体験を味わいました。こんなにコミュニティの結束力や他者との相互理解を深く意識するとは当初思ってもいませんでした。自らもビジネスをおこなっている以上、契約や利益などを基盤とした人間関係に疲弊することもありますが「バーニングジャパン」においては感情や目的意識によって結びついた仲間とともに何かを創り上げる心地よさを感じました。まさに、ドイツの社会学者であるテンニースが提唱したゲゼルシャフト※1とゲマインシャフト※2が表すものと同義であるように思います。

※1ゲゼルシャフト:「利益社会」や「社会」と訳され、個々の利益や目的によって結びついた、より形式的で契約的な社会関係を指す。

※2ゲマインシャフト:「共同社会」や「コミュニティ」と訳されることが多く、情緒的・自然発生的なきずなによって人々が結びついた社会関係を指す。

どちらが優位であるといったものではなく、どちらも必要なものです。ただし、現代社会においては利益追求に追われゲゼルシャフト的側面が強くなりすぎてしまっているように感じます。それが現代人の抱える生きづらさに関連しているのではないでしょうか。2元論的な思考にとらわれることなく両者のバランスをとり、連携しながら新たなコミュニティのかたちを模索していく必要があると考えます。それは難しいことですが「バーニングジャパン」で体感した経験や価値観を共有し、相互扶助やGIVEの精神がコミュニティを形成するヒントになると感じています。UFOやロボットをつくっているようで、コミュニティのきずなをつくっていたような体験こそ、現代社会に必要なものではないでしょうか。

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