輝く光が音に乗って月夜に浮かんでいる、日常では決して目にしない光景……。森に現れたUFO型のDJブースを見上げた参加者たちは目を見開き、感嘆して近づいていきます。「こんなのみたことない」「最高に馬鹿げていてクール!」海外のかたも唸るほど好評だったUFO型のDJブースは、約2ヵ月という短期間で実現に至りました。

今回の舞台である「バーニングジャパン」とは、「ギブの精神」で成り立つ祭典です。鳶髙橋メンバーで参加表明をしたのですが、最終的には建築分野で指揮をとる機会をいただき、祭典の真髄に触れる唯一無二の体験を味わうことになりました。

主体性と貢献の気持ちが集う祭典「バーニングジャパン」

「バーニングジャパン」オフィシャルサイトより

「バーニングジャパン」は、アメリカ・ネバタ州で毎年開催されている「バーニングマン」のビジョンを引き継ぎ、2012年から実施している日本版の祭典です。会場にはパフォーマーや、アーティスト、食事を提供する方々などが参加し、自分たちがやりたいことを持ち寄ります。

「バーニングジャパン」には「傍観者にならない」、「売買ではなく与えあうこと」などの基本方針があり、「The 10 Principles of Burning Man(バーニングマンの10原則)」が提示されています。こうした方針により、まちのような空間が作り出されているのです。

「バーニングジャパン」オフィシャルサイト画像より筆者編集

2027年で100年企業になる鳶髙橋は江戸町火消にルーツを持ち、現在も地域行事への参加を通じて地域の方々と絆を紡いでいます。先人からつないできた信頼や文化を重んじながら、建築を通じたまちづくりで価値を生み出す活動(東京文創)を進めるなかで、「バーニングジャパン」に出会い、「与えることを喜びとする Gifting」「隣人と協力する」といった基本方針や運営のメンタリティーに親和性を感じて参加を決めました。

馬鹿げたアイデアを本気で楽しむ、空中DJブースを実現する「Space Disco」の誕生

オンライン会議で自己紹介、キックオフをおこなった

「普段は建築、不動産、設計領域で活動をしながらまちづくりにつながるイベントの運営や情報発信をしています。」鳶髙橋代表の髙橋が「バーニングジャパン」に参加表明をした瞬間、「バーニングジャパン」を日本で立ち上げた張本人でもあり、今回のテーマキャンプでリーダーを勤めるアフロマンスさんこと中間さんが連絡をくれました。

「バーニングジャパンでは、テーマキャンプといって、コンセプトに紐づいたブースをいくつか展開するのですが、うちのテーマキャンプも面白いことをしたいんですよね。今回はしんちゃん(鳶髙橋代表 髙橋:「バーニングジャパン」では「プラヤネーム」というニックネームで呼び合う)がいるので、今までとは違った、建築物として面白いものがつくれると思うんです。是非、アイデア出しさせてください。」

オンライン会議で考えられたUFOのDJブース:アフロマンスさん作

さっそく実施したオンライン会議で、各々のアイデアや実現したい世界観を語っていると、アフロマンスさんが突然「森を抜けるとUFOがいるってイメージありますよね?」とアイデアの一撃をチームに食らわしました。「しかもUFOの中がDJブースになってUFOの下がダンスフロアになってたら最高じゃないですか?」と、聞いているだけで気分が高まるひらめきを共有してくれました。

「Space Disco」ロゴデザイン:アフロマンスさん作

実現したい世界がどんどんと整理され、あっという間に「Space Disco」というコンセプトの具現化が進みます。鳶髙橋として架台、構造設計、職人さんも巻き込んだ参画が決まり、大道具や造形に知見のあるメンバーと共に計画を練っていきました。

UFOが浮かばない!?予想外を支えたヒーローたち

初期の建築イメージ図:鳶髙橋、アフロマンスさん共同制作

いざ「Space Disco」の実現に向けて動いてみると、幻想的なアイデアによる設計の難しさや人材リソース不足が制作の実現を妨げていきました。そんな局面で、髙橋(しんちゃん)は針金を用いた作業など代替案の提案や調整を重ねていきました。

欠員が出るなどやむを得ない事情が重なっていましたが「安全な土台と設備さえ整えば皆の力を借りて[Space Disco]のコンセプトは実現できるので大丈夫」と語る髙橋(しんちゃん)に施工チーム全員が背中を押され、前進しはじめます。

直前に参加を表明してくれた救世主の丸谷さんことまるちゃん:写真左側

刻々と時間が経つなか、ひとつの課題をクリアすると新たに見つかる問題点に頭を悩ましていたメンバーでしたが、そこに奇跡が起こりました。「バーニングジャパン」開催9日前のタイミングでアフロマンスさんがイベントの告知をしたところ、ある職人さんが連絡をしてきました。「セットをつくる大道具やトレーラーハウスづくりをしている丸谷です。イベントに興味があります!」直前に届いた朗報に信じられない気持ちと嬉しい気持ちが押し寄せます。

絶景を背にして夢の装置を創り出す

予想外の助っ人である丸谷さん(プラヤネーム:まるちゃん)が加入したことにより、UFOの骨ぐみや、ミラーボールと化した牛の土台も事前に完成し、大幅な時間削減が可能になりました。「バーニングジャパン」当日、鳶髙橋の職人も合流し、まるでバトンをつなぐように工事がスタートしました。

UFOに連れ去られる牛型のミラーボールを手作業でつくった

壮大な富士山が見通せる会場に「ここにUFOが浮かんだら、まさに最高の異空間ができあがる。」と髙橋(しんちゃん)も気合十分のなか、まるちゃんとアフロマンスさんを中心に施工を開始します。気が付けばミラーボール制作や、シーシャ、サウナ、Bar、飲食ブースの設置など全員が各自の役割を全うしていきます。

滑車で装置を持ち上げようと挑むが……

順調に作業が進んでいましたが想定外の出来事も起きました。DJブースとなるUFO部分は当初の設計図に従って滑車の原理で引き上げようとしたものの、想定以上の重量になったUFOを持ち上げることができず、やり直すことになったのです。

その場にいたメンバーが力を合わせてUFOを空中に掲げる

試行錯誤をした結果、UFOを人力で持ち上げるという結論に達し、その場に居合わせたメンバー12人が集結し、夕陽が落ちかけている夜空にUFOを掲げることになりました。皆の協力でブースが完成した瞬間はまさに幻想的で、自然と拍手が巻き起こります。

装飾をおこなうことでDJブースが独創的な作品として昇華する

翌日には塗装や電飾を完成させ、ついにDJ機材のセッティングが完了しました。富士山を背景に現れるUFOは驚きなしではみられない。奇跡が紡いだ作品となりました。

宇宙を感じさせる、エネルギーが渦巻く奇跡の空間

完成したUFO型のDJブースには次々と人々が集まり、自然と笑顔になる

人々がひきつけられるように集まり、歓喜し、リズムに乗って笑顔を生み出した「Space Disco」。思うようにいかないことのほうが多かったものの、制作過程の全てが楽しかったといえる体験になりました。まさに2023年の「バーニングジャパン」のテーマである「RAISE YOUR TORCHES」を体現したかのように、携わったメンバーがそれぞれの思いを掲げ、会場を照らしたと思います。

心から実現したいことを形にし、貢献をする心持ちで支え合う「バーニングジャパン」に参加するメンバーが集まるからこそ生まれる心地よさは、まさに異空間。プラスのエネルギーが集まっているかのように感じさせる奇跡のような場所となりました。

記事一覧に戻る