「父であり、鳶高橋3代目社長の高橋慎治を一言で表すなら、自由ですかね」

 どこか冷静に、かつ嬉しそうに語るのは高橋慧さん(18)。幼いころから働く父の姿をみてきた彼は、「父は他の建築経営者と違う雰囲気があるのは感じ取っていたし、働き方も生き方も自由だと思っている」と振り返ります。取引先とは仲が良く、祭事では輪の中心でいつも場を盛り上げているという髙橋慎治は、家でも明るく裏表がない性格なのだとか。2025年7月、そんな父が働く建築現場に初めてインターン生として同行。慧さんはいつもの父とは違う一面をみて自らの未来をみつめ直すきっかけにさえなったと思いを打ち明けてくれました。

息子からみた、鳶髙橋三代目社長

父であり社長の髙橋慎治からの指示を受け作業にとりかかる慧さん:写真右

3人兄弟、18歳の髙橋慧さんは、親子3代続く株式会社鳶髙橋の3代目社長、髙橋慎治の息子として現在大学で学業に励んでいます。口数は少なく慎重に考えてから話す様子がみて取れる慧さんの目には、代表高橋の姿はどのように映っているのでしょうか。

慧「父は自由派でフリーダムですが、堅実で真面目なところも持ち合わせていると思います。自由な人ではありますが、自由なだけでは仕事を牽引することはできないと思うので、堅実で真面目だと思います。まわりの大人をみても、父のように仕事をしている人をみたことがありません。時間や場所にとらわれずに複数の拠点を周りながら、従業員をまとめて事業を大きくしている姿は正直すごいと思います。

職人の皆さんも全員が長年働いている人達なので、私が小さい頃から顔なじみで、”身長がまた伸びたんじゃないのか?”など、私の成長を見守ってくれているように感じます。

鳶高橋は親子代々、江戸町火消の頭として祭事運営をしているので、お祭りの運営にも小さい頃から行く機会があり、ひいきの取引先や職人さん、お祭りの運営者さんたちに囲まれて場を盛り上げている父の姿をずっとみてきました。おどけたり、人を笑わせたり、人懐っこい”しんちゃん”として場を和ませている父。家でみせる姿と同じ、お調子者の面もあるけど裏表のない人です」

慧さんは、周りを照らす明るい父の背中から多くを学んでいるそうです。特に、礼儀を大切にすること、人を大切にすること、人間力を高めることの重要性を日々感じ取っているのだとか。

慧「高校生の時に父に進路相談をした時のことを覚えています。自分の中では考え抜いた答えだったので、父の”いいんじゃない”の一言には拍子抜けしました。思い返せば、父は私の決断に口を出したり否定することが一度もありません。

そんな父をみていて思うことは、人柄をよくすることがいかに大切かということです。息子である自分に対しても、仕事や取引先の人達をサポートしている姿からも、身近な人達を助けている印象があります。

同時に父は多くの人から支えられています。いつも父の周りに人がいる理由は、嘘をつかない、明るく振舞う、助け合う生き方にあるのだと思います。直接伝えたことはないですが、父に対して憧れをもっていますし、自分もそうありたいと思わされます」

建築現場にインターンとして参加した時の衝撃

段取りの確認をおこない、一日の流れを把握する

2025年7月。慧さんにとって初めて現場仕事に携わる機会が訪れました。クリエイティブカンパニー「Afro&Co.」設立者のアフロマンスこと中間さんが仕掛けた、「脳汁横丁」です。鳶高橋は、光と音に包まれた異次元空間に立ち並ぶフードや飲食体験を楽しめるイベントの設営協力をしました。

慧「都内に佇む綺麗なビル、敷地には何もなく、ここでイベントが生まれるとはイメージがつかないなか、初めての現場仕事に緊張していました。多くのチームがリモート会議を重ねていたプロジェクトだそうで、スピード勝負の現場には緊張感も漂っていました。建築チームが集まり、父が中心に立って段取りや注意点をメンバーに伝えました。”変更事項や想定外のできごとも多く予想できるため、臨機応変に行動してほしい”いつもとは違う、リーダーとしての真剣な横顔に身が引き締まりました。父の指示を聞く職人さんの表情も真剣そのもので、チームをまとめる父の人望や、積み重ねてきた信頼やチームワークを目撃しました。

長年培ったチームワークで流れるように作業する職人チーム

搬入がはじまった時、建築チームのチームワークには驚きました。具体的な指示をしなくても一人ひとりが持ち場につき、必要に応じた動きをとる。そして、職人さんや父が道具を自分の手先のようになめらかに使う様子をみて、これがプロの現場なのかと、自分も遅れをとらないように考えながら現場のスピードについていくのに必死でした。

この場に携われているということだけでも喜びを隠しきれない、そんな気持ちになりました。自分もドーパミンやアドレナリン、まさに「脳汁」が出る、熱狂の渦のなかにいました」

現場が完成した達成感に、これがプロジェクトを進めるということなんだと肌で感じたと、アルバイトとは異なる緊張感と達成感で仕事の厳しさと楽しさの両方を味わったという慧さんの衝撃が伝わってきます。

避けられない運命と思うほどの父の影響力

毎年運営する酉の市も手伝い始めた

鳶髙橋は普通の建築会社と違う。慧さんがそう感じるのは、鳶高橋のビジョンである「東京文創」が大きく関わっています。「東京文創」とは、江戸・東京の街を考え、守り、作ってきた鳶のバックグラウンドから、遊び心を忘れずに持続可能な未来を目指してまちづくりに向き合い、そのために必要な一人ひとりが「熱狂」し「夢中」になれるスタイル、在り方を指します。建築にとどまらず、文化創造事業に取り組む父の姿をみている慧さんは彼の将来について教えてくれました。

慧「鳶高橋のように、建築、設計、不動産を扱いながら、江戸時代から続く新宿の祭りごとも代々任せられている、歴史的価値がある会社はみたことがないです。文化を守りながら新しい取り組みや地域をつなぐ事業もやっている父の背中をみていたら、この会社を自分の代で終わらせるわけにはいかないと考えさせられます。一種の使命感であり責任感のようなものです。100年続くことをやっていると言えたら、とてもかっこいいと思うんです」

建築現場の厳しさと楽しさを実感する慧さん

潜在的に意識をしていた後継ぎ。今回現場を手伝ったことで将来会社を引き継ぐという選択肢がより現実味を帯びてきたと語ります。現在は大学で学びながら英語、宅建も勉強している慧さんが、最も情熱を燃やしていること、それは音楽。ラップや曲作りに夢中なのだとか。実は父、髙橋慎治も現役DJ、代表就任前はアルバム『MOODS』のリリース。楽曲の一部は映画、リクルートCM楽曲として起用されるなど音楽に精通しています。

慧「父のように音楽の道に進み、後継ぎも視野に入れている。なんだか決められた運命みたいに感じています。父からの遺伝やマネできる部分は継承しながら、全国で仕事をしたり、父のように没入して自分の道を突き抜ける人生が送りたいです」

父の背中を追う運命かもしれない。と語る慧さんの顔はどこか誇らしそうでした。

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