「髙橋さんが信じて寄り添い続けてくれたおかげで、最高の空間ができました」満面の笑みを浮かべて喜ぶのは、新鮮さとお手頃価格が両立した、エネルギー溢(あふ)れる八百屋さん「フルベジ」を多店舗展開している森明子さん。人々の健康を支えるために経営を続けてきた彼女が次に目指すのは、心の健康。ウェルビーイング、パーパス経営を推進する株式会社鳶髙橋、代表髙橋と通じる理念を持つ経営者同士は不思議な出会いを経て長年の友人のようにすぐに意気投合しました。森さんの夢みていた空間を実現するためにさまざまな創意工夫が施され、人の歩みに向き合う空間が完成しました。

想定外の出会いから家づくりがはじまる

YouTube動画で撮影した、活気あふれるフルベジ下北村

東京文創をテーマに建築プロジェクトを推進している鳶髙橋は、東京の日常を表現するために撮影場所を探していました。「”八百屋”という言葉ではくくれない、活気あふれる場所がある」その店舗の常連でもあるスタッフがフルベジを提案しました。活気があり、訪れるお客さんも楽しげに買い物をしているフルベジは、まさに東京の営み、生活を表すにふさわしい場所だというのです。さっそくオーナーの森さんに撮影許可をとったところ快諾してくださり、撮影に伺いました。

改めて森さんから連絡が来たのはYouTube動画が公開された後でした。

森さん「ちょうどどこかに施工をお願いしたいと思っていたタイミングに、ちょうど下北沢のフルベジを撮影したいとご連絡をいただいて、ご縁を感じました。Webサイトをみたときに髙橋さんのお考えや施工事例をみて、こんな空間がつくれたらいいなとすぐに連絡をしたんです」

お会いする前から鳶髙橋に工事依頼をすると決めていたという森さん。2024年11月に2階建ての店舗付き住宅のご依頼をいただきました。森さんと髙橋が話しはじめた瞬間、周囲のスタッフは、もともと知り合いなのかと勘違いをするほど2人の意気投合する姿がありました。心落ち着く和の空間で人の心に向き合いたい。森さんが抱いていた夢を伺い握手を交わす2人の熱狂からプロジェクトがはじまりました。

まるで異世界へのスイッチ、渡り廊下に鑑定スペース

森さんが実現したい空間、それは人の心の在り方や生き方に寄り添った時間を提供することです。生まれ年などを参考にした鑑定でその人が持つ素質をみながら心に寄り添える存在になりたいのだとか。

室内に石畳の渡り廊下をつくるという、新しい発想を実現

そんな世界線を実現するために建築プロジェクトチームがこだわったのは入り口の渡り廊下です。扉を開いて、廊下を歩きだすと、足元には和の色彩と石の質感が現れます。長く連なる石畳と白い小石を散りばめた対照的な配置を歩きはじめると、小宇宙との境界を感じとるような「禅」を彷彿(ほうふつ)させてくれる、和の空間へと誘われていきます。無垢材(むくざい)と障子がやさしく包み込んでくれるような渡り廊下の奥には細く差し込む光があり、その先に続く時間を静かに感じさせるようです。

異世界へといざなわれるかのような気持ちにさせる石畳と白い小石のコントラスト

渡り廊下は、訪れる人が自分自身と向き合うために気持ちを切り替えられるような空間にしたかったという森さん。その要望に応えるため、廊下の幅や距離を設計し、圧迫感を感じないように入り口には明かり取りの扉を採用。自然光が石畳を照らし、明るい未来へといざなうような演出を施しました。

手仕事でつくられた建具と格子扉が印象的

部屋に入ると手仕事でつくられた建具や、こだわりの壁紙にかこまれた空間が現れます。格子扉の奥には窓から自然光が差し込み、静けさに包まれた空間が姿をみせます。畳の上で心を落ち着けると、視線の先には黄金色の気配をまとった壁紙が、奥ゆかしく輝きを添えています。

髙橋「障子や引き戸のやわらかな質感が、日常にひとときの静寂をもたらしてくれる上質な和の空間に安らぎを与えます」

「キッチンは招き入れる方々が気軽にリラックスしていただけるように、使い勝手のよいスタンダードなモデルを選びました。キッチンを使わないときには、手作りの扉で収納できる仕掛けを設計しまし、上質な空間に緊張感を持ってしまわぬよう、対照性を持たせています」

手仕事の建具でキッチンを収納できるデザイン

日の光に包まれた明るい空間で、コミュニケーションをとりながら自分自身と向き合い前向きになる時間が流れる。森さんの描いている未来がプロジェクトメンバーの目にも浮かぶような、プラスのエネルギーが渦巻く空間になりました。

実は心が折れそうになったことも……

光を多く取り込める格子戸を採用し、空間の広さを演出

不確定要素や制限の多さから、森さんは問題解決に頭を抱える瞬間もあったのだとか。多くの関係者が携わるプロジェクトに途中から参加をした髙橋は「複雑に絡み合う課題をまずはほどいて整理することから始めました。関係者の熱量と気持ちが高いからこそ、ディスカッションをしながら共感と編集をしていく時間がつづきました。世界にひとつしかない特別な空間をつくるために森さんとは密に連携を取りながら情報共有をしていました」と当時を振り返ります。

森さん「私の構想を実現するには建物の制約上、難しくなるという局面が続き、心が折れそうになったこともあります。そんなときに髙橋さんがいつも”できるよ、信じてるよ”といい続けてくれていました。一緒に実現させよう、その言葉と行動力が心の支えになりました」

森さんの願いを実現するにあたり、鳶髙橋の一級建築士である白尾さんの存在も欠かせなかったのだとか。「白尾さんに夢の空間を共有すると、クリアすべき点を明確にしたうえで”できますよ”ととても心強いお言葉をいただきました。建築プロジェクトチーム内でも、これはなかなか難しいという声もあったなか、建築容積や構造、細かい意匠デザインについてもたくさん対話を重ね、進めてくださいました。髙橋さん、白尾さんと峠を越えたような瞬間を共有したように思います」

エネルギーが渦巻く空間で生まれる新たな可能性

素敵な空間の完成と、森さん:写真左 の益々のご活躍を願って

髙橋「森さんが思い浮かべる未来を一緒に描ける、そして空間をつくったあとも、その展開を見守れることがとても幸せです。未来を紡ぎ合う場所で、福の神のような森さんの活躍を願っています」

森さんが描いた空間は、施工を担った鳶髙橋との信頼の上に完成しました。思い描いている建築のイメージが言葉にならなかったり、作り手にどう伝えたら、本当につくりたい空間ができるのかという問いに、1つひとつひもときながら読み解いて答えて、空間を構成していくことが、これから始まる未来の夢を引き寄せる。想いを形にし、ともに困難を越えたからこそ生まれたこの場所には、関わったすべての人の時間と願いが静かに流れています。

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