2024年5月に発足した株式会社鳶髙橋と社会学者伊藤将人氏によるプロジェクト「CROSS-東京文創-」の実装に向けてヒントを得るべく、今回「IVS2024 KYOTO/IVS Crypto 2024 KYOTO(以下:京都IVS)」に参加しました。レガシー産業である建築業界において100年近くの歴史を持つ鳶髙橋が生み出す未来を探ります。

日本を代表するスタートアップ・カンファレンスへ

京都IVSのMAIN STAGEは昨年に増して豪華

国籍、宗教、性別、職能、技術、所属企業、考え方など、さまざまな境界を超える「Cross the Boundaries」というテーマで開催された京都IVSは、メイン会場の1階中央に女性起業家を応援するセッション「EmpowerHER LOUNGE」が設置されているなど、境界を超えるコンセプトが会場に表現されていました。

イベント会場は80年代をイメージしたようなネオンやオブジェが散りばめられ、テーマソングやミュージックビデオまでつくられるという徹底ぶりです。未来を語る場が80年代の雰囲気をまとっているギャップには心をひかれます。今年は2023年度の来場者約10,000人を上回る約12,000人が参加し、女性参加者比率は過去最多の24%(公式発表)という結果が、デザインコンセプトの成功を表しています。

<京都IVS概要>
日程:2024年07月04日(木)~06日(土)3日間
時間:10:00~19:00(DAY3は18:15まで、一部は17:00閉場)
メイン会場:京都パルスプラザ他
主催:IVS KYOTO実行委員会(株式会社Headline Japan/京都府/京都市)
公式サイト:https://www.ivs.events/ja/2024

情熱あふれる企業ブースでの出会い

私たちが現地に到着すると、会場内に設けられた各企業ブースの皆さんが明るく出迎えてくれました。笑顔でいきいきと自分たちの事業を説明する姿に、江戸東京のお祭りに通じるような熱意を感じました。ここでは各企業の取り組みや、東京のまちとともに歴史を紡いできた鳶髙橋とのコラボレーションの可能性について考えていきます。

NFTと盆栽という意外な組み合わせで事業を推進する、まじすけ株式会社

NFT(非代替性トークン)を利用し盆栽の価値流動性を高める新たな取り組みをおこなう、まじすけ株式会社。建築業界でも、建築家やデザイナーが作成した建築デザインや3DモデルをNFTとして販売することでデザインの価値を高める取り組みができるのではないかと考えさせられる展示でした。

人材との出会いをサポートする株式会社YOUTRUST

コトを起こすためには人の力が必要。スタートアップ企業と同じフィールドで人材獲得を積極的におこなう建築企業は意外に少ないと感じています。信頼に着目した、まるでリアルのつながりを感じるようなマッチングシステムを活用することで、同じ想いを持った人々との出会いで我々の事業も大きく飛躍できると感じました。

AR技術により、現実世界に3Dキャラクターを登場させる技術を持つAKA Virtual.Inc

AR(Augmented Reality:拡張現実)による設計図の可視化をおこなうことで、従来の平面図や模型では伝わりにくかった空間の広がりや素材感をリアルタイムに体験可能になり、3Dキャラクターによるクライアントへのプレゼンテーションの実現を通して、設計段階での意思疎通が円滑になる未来も描けそうです。

人々のつながり方を再定義する次世代ソーシャルアプリケーションを展開するpeer.Inc

「peer」は自分が訪れた場所や思い出の場所を3Dマップ上に記録し、友達と共有できるアプリケーションです。これにより自分の世界を視覚的に表現し共有できるため、建築物のバーチャル体験を提供し、より多くの人に建築の魅力を伝えることができそうです。

「アンチディシプリン」というアプローチ

「最先端の研究者、大集合!未来へつなぐ社会実装へのこだわり」というセッション内で発表された国立大学法人筑波大学准教授の岡瑞起さん(以下:岡さん)のお話は、私たちの新規事業「CROSS-東京文創-」実装に向けて大変興味深いものとなりました。新たなアプローチにつながる「Anti-Disciplin(以下:アンチディシプリン)」とはいったい何を指すのか、社会実装とのつながりを紹介します。

「アンチディシプリンと社会実装への挑戦」

岡さんは、筑波大学で人工知能(以下:AI)と人工生命の研究をおこないながら、アカデミックな立場から社会実装に挑戦することの意義と手法を説明されました。特に、既存の学問体系の枠を超えた「アンチディシプリン」の重要性を強調したうえで具体的な取り組みが紹介されました。

アンチディシプリンの概念

定義:アンチディシプリンとは、既存の学問分野(Discipline:ディシプリン)に縛られず、分野間の新たな領域を開拓し、未知の問題に挑戦するアプローチです。

ここで重要となるのが、ゼネラリストとスペシャリストの概念です。学問における専門性(スペシャリスト)と、幅広い知識・視野(ゼネラリスト)を融合し、新たな領域を探索・接続することが求められると岡さんは強調します。

アンチディシプリンの必要性

複雑化する社会問題や技術課題に対応するためには、既存の学問体系を超えたアプローチが必要です。AI技術の発展に伴う倫理的・社会的問題がその一例です。ユーザーの視点を取り入れ、ニーズに応じた技術開発、いわゆるユーザーセントリックな技術開発が重要となります。

ユーザーセントリックな技術開発の事例として、自動運転車があげられます。自動運転車の開発は、技術的側面だけでなく、社会への影響やユーザーの行動変化を考慮する必要があります。自動運転車導入によるコミュニティへの影響(歩行者や他の運転者の行動変化)を予測し技術開発に反映することはまさに多角的視点から開発に取り組む事例そのものです。自動運転車の普及による交通量増加や駐車スペース需要減少など、社会的な影響を予測し、都市インフラへの影響も考慮するからこそアンチディシプリンが機能するといえます。

アカデミックの課題と未来

AI倫理やデータプライバシー問題など、学術研究と現実社会のギャップを埋めるのは簡単ではありません。そこで重要になるのが教育です。アンチディシプリン的な視点を持つ人材を育成するため、複数の学問分野を横断するカリキュラムを提供し、学生の視野を広げることが解決の糸口になりそうです。

岡さんが取り組む事例として印象的だったのが、メディアアート、AI、音楽を組み合わせた研究など、既存の枠にとらわれない教育事例でした。このような「新しい学問領域の開拓」としてAIと人間の共生など、新たな学問領域の開拓が未来に直結するのだと私もイメージができました。こうしたアンチディシプリン的アプローチは、複雑な社会問題や技術課題に対応し、新たな価値を創造するための鍵となりそうです。

京都IVSでの体験から考える「CROSS-東京文創-」のこれから

今回の京都IVSで、私はより良い未来を創造する人々の熱狂に刺激されました。我々が実装に向けて動き出した「CROSS-東京文創-」も、多様な分野の人々が集い、オンラインとオフラインを融合させ、過去と未来、伝統と革新を融合した新たな価値を共創する場を目指していきます。まさに岡さんの話にもあったアンチディシプリンが実装できる意義がある活動だと改めて認識させられました。

京都IVSで出会った人々やプロジェクトとの連携、NFTを活用した新たな価値創造、サステナビリティへの配慮なども視野に入れ「CROSS-東京文創-」を建築業界だけにとどまらない、日本社会全体の発展に貢献するプロジェクトへと成長させていきたいと決意を新たに京都を去りました。

Writer:Iguchi Keita

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