バルセロナの日常に溶け込みながら、圧倒的な存在感で異彩を放つサグラダ・ファミリア。稀代の建築家アントニ・ガウディは、自然の摂理と有機的な造形美を建築へと昇華させ、未完の傑作という名のまさに「生命」をこの地に吹き込みました。
1月10日より開催されている『NAKED meets ガウディ展』。ガウディ没後100年と「イエスの塔」完成を祝すこの特別な場で、鳶髙橋のメンバーとともにその足跡を辿りました。デジタルアートと歴史が融合した世界初公開の展示は、実際にスペイン・バルセロナの地で体感したガウディの造形美への理解を深めてくれるものでした。
自然界のロジックを翻訳する建築家

NAKED meets ガウディ展はプロジェクションマッピングやインタラクティブアートなど、現代技術を用いて没入体験とともにガウディの思想を疑似体験できる仕組みがあります。多くのパネルや手記からも、ガウディの秘密が学べます。改めてガウディの育った環境や思想を学ぶと、畏怖の念さえ覚えるガウディ建築の美しさは、単なる「曲線美」「デザイン性」といった既存の枠組みでは、その本質を捉えきれないことに気づかされます。自然の力や重力という、目に見えない力と対話し続け、自然界の摂理を幾何学へと翻訳し続けたひとりの「文創者」の格闘の記録そのものともいえるのではないでしょうか。

ガウディは「自然界に単調で一様なものは存在しない」と断言します。たとえば、彼にとっての「色」とは、単に表面に塗られた顔料ではなく、素材の成り立ちや光との関係から立ち上がる「現象」を指します。木の葉や岩、地形を単に模倣するのではなく、そこにどう力が流れ、どう形が生まれ、どう時間がつみ重なって風化していくかという「動的なロジック」を読み解くことなのです。サグラダ・ファミリアで目を引く、樹木のように分岐する柱は、自然がすでに解いていた構造の答えを、建築という言語で言い換えたものとも言えるでしょう。
まさに「放物と曲線のマジシャン」

ガウディの建築を語るうえで欠かせないのが、放物線に極めて近い性質を持つ「懸垂曲線(カテノリー)」の存在です。これは、紐の両端を固定して自然に垂らした際に描かれる緩やかなカーブを指します。ガウディはこの「重力に従って垂れ下がる形」を上下反転させれば、石を積み上げた際にも自重を完璧に支えられる、もっとも効率的で安定したアーチ形状になると確信していました。

この理論を具現化するため、彼はサグラダ・ファミリアの設計において、無数の紐と重りを用いた「逆さ吊り模型」を製作し、人知を超えた複雑な曲線を導き出しました。こうして生まれた放物線的な曲線は、さらに高度な「サドル形状(双曲放物面)」へと発展していきます。ガウディ建築を支える複雑な曲線は、実は「直線」を用いて作られた双曲放物面などの幾何学的形状にもとづいているのです。直線的なフレームをひねるだけで、構造的に強固で豊かなニュアンスを持つ曲面を生み出すその手法は、機能と美が完全に一致した究極のしつらえといえます。

カサ・カルベットの覗き穴に見られるハニカム構造も、ミツバチの巣から直接的なインスピレーションを得たとされ、装飾だけでなく音響や通気性を高める合理的なデザインとして機能しています。
スペインに足を運び、本物に触れる

実際にスペイン・バルセロナに足を運んでみると、街並み自体がアート作品のようです。バルセロナの中心地では、ガウディを中心とするゴシック形式の建築物が目立ち、観光地として知名度が低い建物にも歴史を壊さずにつみ上げる積層の哲学が息づいています。
バルセロナ、およびスペインでは建物の保護レベルが細かく設定されており、建築の建て壊し、改修は土地の保有者でさえ許されないケースが少なくありません。装飾で覆うことは可能なので、一部店舗では各ブランドに合わせた内装にしていますが、実は躯体部分やタイルなどは随所に隠れているのです。多くの建築は歴史的建築物を生かした店舗内装にしているため、大手ブランドが並ぶ中心地でも、古くから残る建物様式、支柱、モザイクタイルが楽しめます。

交通が発展しさまざまな商業施設が増え続ける都会、バルセロナの中心にサグラダ・ファミリアは突如現れます。どこまでも見上げ、視線を外せない、その圧倒的なスケールと密度に、言葉を失うほどの衝撃が体中を駆け巡ります。

人々に衝撃を与える程の作品を作ったガウディが1926年にこの世を去ってから、サグラダファミリアという「未完成の聖堂」が歩んできた道のりにも深く感銘を受けます。1936年のスペイン内戦で工房が焼かれ、多くの石膏模型が粉々になるという絶望的な破壊を経験しながらも、現代の建築家たちは航空設計ソフトウェアなどを駆使してその破片をリバースエンジニアリングし、ガウディの失われたビジョンを復活させているのです。かつての基礎部分を支えるだけの軽量さを保ちつつ、急速に建設を進める最新の工法。これこそが、世代を超えて受け継がれる「創造の壮大さ」であり、粘り強さの証です。
サグラダ・ファミリアの主任彫刻家が日本人であることをご存じでしょうか。1978年から同教会の建設に携わる外尾悦郎氏は、ガウディは宗教的な建築物を超えた「普遍的な言語」を作り上げたのだと語ります。自然を支配しようとせず、その真理に寄り添おうとした彼の作品は、地震や台風と共に生きてきた日本の文化、そして「東京文創」を掲げる私たちのスピリッツとも深く共鳴します。
建築が持つ可能性とエネルギー

理論を超えたエネルギーを目の前に、まさにガウディは今でも指揮をとっているのだと実感しました。スペインの強烈な太陽光がステンドグラスを突き抜ける光景、色とりどりのタイルを生かしたデザイン、さまざまな理論や技術を総動員するエネルギーの巣窟からは建築が人間活動に与える影響力、可能性を再認識させられます。
ガウディは複雑な幾何学を数字で説明するのではなく、模型という「形」で示すことで、職人の直感に直接訴えかけ、チーム全体の「熱狂」を維持しながらも、「諸君、明日はもっと良いものを作ろう」と毎日声をかけていたと言われています。ガウディが模型に託したのは、そうした人間臭い熱量そのものだったのではないでしょうか。神の啓示を現実へと変えた彼の執念に触れ、我々が目指すべき建築への解像度がより一層高まったように感じます。
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