2021年4月23日に公開、映画『るろうに剣心 最終章』。株式会社鳶髙橋は明治初期の情景デザイン担当として舞台装飾に携わりました。
るろうに剣心の舞台は、江戸の名残が感じられる明治初期の東京。劇中では、文明開化を目前に、最後の戦いへ挑むクライマックスが描かれています。
物語の舞台となる明治初期の情景や歴史背景を鳶髙橋の目線で解説することで、映画の世界観を楽しむ一助になれたら幸いです。
激動の時代、明治初期
日が昇ると活動をはじめ、日が沈むと家々に帰っていく。そんな自然の摂理に沿った生活を送っていた人々に「時間」という概念が入ってきた明治初期。文明開化に揺れる激動の時代に、時計をはじめとする西洋文化が根付き始め、成熟されていた古来の文化は変化をとげていきました。
門松の由来
明治時代の文化を語る上で外せないのが、万物に神々が宿っているとする「八百万の神」の存在です。平均寿命が短く、災害による被害も直接生活に関わっている人々にとって、ご飯をいただく、健康に暮らしをおくることは尊いことであり、神々に感謝をしながら、時には心のよりどこりにしながら生活をしていました。
毎年、お正月を無事に迎えることができた、今でいう当たり前のことにも感謝をしながら、氏神様を向かい入れる。
氏神様を各家に向かい入れるために、目印として門松を玄関に置くという習慣はいにしえの古来より受け継がれてきた日本の風習です。無病息災や五穀豊穣を願い、新たに1年を迎えるのです。
枝葉や枯れ木があってもいい、家によって異なる風合いの正月飾り
当時の正月かざりの門松、しめ縄飾り、俵などは、自然を感じさせる、現在目にする加工されている「商品」とは風合いが異なる仕上がりになっています。現在では林業の業者さんが松を山から切り出す際、枝っぷりや長さを揃え、枯れ木を除く工程があるのですが、昔は素材をそのまま使います。
地域それぞれにある、自生している竹や松を切り出して、素材そのものを活かす、鳶職人に頼む家もあれば、冬の時期に農家で手つくりし藁を集めてしめ飾りをこしらえる家もあります。門松一つとっても家によって風合いがあり、木造、長屋が軒を連ねる情景にマッチする自然美を形成していました。
軽視される文化にみる使命感
明治の初めはほぼ江戸時代、幕末、文明開化を目前にした若者たちが時代をきりひらく空気感が漂っていました。歌舞伎芸能の新形態発生など新しい文化が受けれられ、仮名垣魯文の『安愚楽鍋』の劇中に「牛鍋食わぬは開化不進奴」(牛鍋を食わないとは、時代遅れな奴だというような意味)というセリフが出てくるように、培ってきた文化を古臭いと軽視する傾向にもありました。神社や寺がが整理された神仏分離や名称変更することもあった時代、一方で万物に感謝をし毎年行事を継承する文化は現在でも色濃く残っています。
本来の意味を受け継ぎ残していく、脈々と築いている郷土文化を現代に投影するのが我々の役割だと感じています。