2021年12月11日にサーキュラー建築プロジェクトVol.2「とっておきのまちづくりワークショップ」で対談がおこなわれました。
各企業の循環型社会への取り組みや、建築と循環型社会のつながり等、事例を踏まえながらお話をしていきます。建築家 星 武司氏、社会学者 伊藤 将人氏、設計士 岸 雄一郎氏による対談の内容をご覧ください。
(本文は編集を加えています。全体動画はこちら)
循環型社会への取り組みは必然になっている
社会学者 伊藤将人さんの講演を終えて
星氏:伊藤先生の講演を聞いて「物欲主義」、「制度疲労」という言葉が胸に響きました。
私は経営を20年以上やっていますが、私たちの活動そのものが未来をつくっていく、未来に直結するということをより強く意識しないと、自分たちの繁栄も未来もないと気が付きました。
私の友人の経営者さんは、伝統工法で古民家をつくる大工さんで、人材の養成をしています。「これからの時代は古民家だ」ということで、事業や技術の継承をしているんですね。本当に素晴らしい取り組みで、見学にもいかせていただいています。
我々は建物という価値観をどう事業へ取り入れるかを考える分岐点に立っていると感じました。
岸氏:伊藤先生の話はグサッと来るものがありました。
事例にあがった古民家について、ほとんどの素材が土や石といった自然素材で構成されています。そして、屋根になる茅をみんなで育てて刈る、そういった交流からコミュニティが生まれます。
地域の素材を使うことによって輸送エネルギーが減少し、CO2の削減にもつながることで日本の伝統家屋は循環型で環境共生であることを現しています。
こういった事例からも、我々が現代に何ができるのかを考えていく必要があると感じました。
循環型社会やSDGsを建築・設計に取り入れる
伊藤氏:SDGsや循環型社会の発想は、言葉だけ受け取ると今までなかった概念のように感じますが、発想の原点や着想は以前からありました。
近代化の過程、産業革命や戦後を経て消えていっただけで、実はもともと日本にあった考えなんですね。イノベーションとか地域資源の活用はまったく新しいことではなく、過去にそのまま戻るわけでもないです。
過去のよい部分・エッセンスを抜き出して現在に当てはめていく発想が、建築に関しても必要だと話を聞いて思いました。
SDGsのなかで「住み続けられるまちづくりを」という目標があります。わかりやすく説明すると、さまざまな人を受け入れるまちであり安全で災害に強いまちをつくろうということです。
そのためには必要な住まいやサービスを確保し、住みたいところに住み続けられるようなインフラをつくっていくこと。そして、すべての人がまちづくりの計画や運営に参加できることが求められます。
これは、スターホームさんがおこなっているユニバーサルコミュニティの話につながると思います。個人的にも気になっているのでユニバーサルコミュニティのお話を聞いてもいいですか。
星氏:ユニバーサルコミュニティは私の造語です。父から会社を引継ぎ、建設業を52年続けてきましたが制度疲労が起こりつつありました。
追随型の受注活動が本当に世の中の人や社員を幸せにできるのか、家づくりを繰り返していくだけが我々の事業の価値なのか、疑問に感じ始めたんです。
世の中には普通の生活ができない方がいます。実際、私の身内に自閉症の子どもがおります。生活に不便を感じるシーンがあるなかで、すべての方々が当たり前に生活できる社会や世の中、仕組みを我々の事業のなかでできないのかという思いからユニバーサルコミュニティはスタートしました。
ユニバーサルコミュニティでは、精神障がい者など障がい者といわれる方が世の中に900万人以上いるなかで社屋を障がい者の方が働けるレストランにしたいと思っています。
「食べる」「楽しむ」だけではなく、ステイする地域に馴染んでいただくこと、知っていただくことをユニバーサルコミュニティのなかで具現化していき、地域の反映につながると考えています。
土地活用はマンションやアパート、建売っていう話ではなく、地域の遊休地を生かしていく、そしてレストランでは三浦半島の無農薬野菜を使わせていただき、農福連携ですべての人が幸せにできるようなコミュニティをつくる、それがユニバーサルコミュニティです。
伊藤氏:「ユニバーサルデザイン」ではなくて「ユニバーサルコミュニティ」という言葉を選んだのが重要だと思いました。
コミュニティとアソシエーションは歴史的に対立して語られています。
コミュニティは家族や土地のつながり、アソシエーションは目的を元にして、人々がつながる、企業や大会に向けて活動するサークルのようなものを指すことが多いです。コミュニティは目的がなくても人々が支え合う関係性なので、まさに適した言葉だと思います。
現代社会はときが経つにつれてさまざまな集団がコミュニティからアソシエーションになっています。ユニバーサルコミュニティであるのはまちづくりの観点でも大切だと思います。
持続可能なまちづくりは災害やコミィニティなど色んな観点から語れると思いますが、岸さんにもお話をいただけたらと思います。
岸氏:コミュニティの話でいうと、「住まい続けられるまち」は住まい手と周りの環境、その界隈の人達がどういったコミュニケーションをとっていけるか、建築設計者として空間構成で試行錯誤を重ねています。
事例として、東京藝術大学出身の建築家、野沢正光先生が携わった「ソーラータウン府中」があります。そこは、四角いコンパクトでシンプルな2階建ての木造家屋が13戸ほど広がるまち並みです。
野沢先生は、道路側を表側として活用し、裏側のスペースを専用のコモンスペースとして設計しました。
ある日、ソーラータウン内の一軒でピアノを弾いている方がいました。その演奏者に対して、罵声ではなく拍手がコモンスペースを挟んだ住宅から送られるというコミュニケーションが発生しました。
設計士としてそういったものを考える必要があると思います。
伊藤氏:ありがとうございます。
コモンスペース。コモンを日本語に訳すと共有という意味だと思います。
私の講演のなかで話した茅場の話も、茅場を「共有地」としてお伝えしました。みんなで管理していますが誰のものでもないというのが重要です。
日本が近代化していくなかで誰のものでもない土地が誰かの土地になっています。
土地は誰かの持ち物なのかを考える必要がでてきているんですね。建物やビルも私的な財産であるという考え方がありますが、本当に個人だけのものなのか、空き家となっても景観的に周囲への迷惑や腐敗による悪い影響がある場合は私的な課題ではなく、地域の課題になっています。
キーワードとして、「公共の福祉」という考え方があります。
みんなにとってよりよい世界を考えたとき、数十年、数百年の単位で考えてきた土地や建物のあり方は、共有するものに変えないといけないのではないかと、近年はまちづくりの審議会などの場でも議論されています。
まちと公共交通の関係
伊藤氏:SDGsの項目にある「住み続けられるまちづくり」におけるインフラとして公共交通機関があります。今回はMaaS(モビリティアズアサービス)事業に取り組まれている方が参加されているので、突然ではありますが、専門家の視点から持続可能なまちづくりと公共交通の話をお聞きしたいと思います。
清水氏:ご紹介に預かりました、MaaS関連の事業会社で役員を勤めています清水と申します。
モビリティサービスは近年、MaaS(モビリティアズアサービス)という言葉で語られています。現在さまざまな交通手段が乱立している状況で、どう地域のなかで生かすかがテーマになっています。
私は今日、駅から路線バスに乗ってきました。路線バスに乗車する方は、高齢者や観光で来られている方が多いと思います。
地域の方は自家用車で移動されると思いますが、免許を持っていない人や免許返納するような世代も増えてきています。そういったときには、バスの利用も考えられます。路線バスは誰のために、誰が維持していくかが論点になりそうです。
こうした課題を考えるのは交通事業者だけでは限界があり、地域や事業者もしくは地元の方と考えていく必要があります。そういったなかでひとつの要素として、皆さんも意識していただけたらと思います。
伊藤氏:講演のなかでも触れましたが、現代の課題は複合的で事業者だけでは難しい、さらに業界だけでも解決できない課題があります。それは建築も交通も密接につながっている部分があるので、清水さんにも質問をさせていただきました。ありがとうございました。
災害に対する取り組み
伊藤氏:まちや環境課題は複合的につながっています。交通や建築にもつながる重要なポイントである災害について、ほかの国より地震が多く、台風にも遭遇する日本でどう地域や家をつくる必要があるか、取り組みも踏まえてお教えください。
星氏:スターホームが拠点とする、葉山エリアは山があり、その向こう側には海が広がっています。海風が強く吹き込むため木が倒れ、建物の一部が破損して窓が割れることもあります。
そうした災害時だからこそ、コミュニティが重要になると考えています。
日頃のコミュニケーションを大切にして、スターホームがコミュニティの核となって地域の方や地域外の方をつなげたいと思っています。単独対応や処理が難しい問題に対して、我々の存在意義があるからです。
環境課題に取り組む上で必要な三方良しの観点
伊藤氏:今回のイベント主催者である、株式会社鳶髙橋の髙橋さんと昨夜お話をしました。
そこで、SDGs、循環型社会、持続可能なまちづくりの理念で事業をおこなっていくと、理念と実体の間で「どこまで自分たちでできるだろう」「悩ましくて進まない」などのジレンマが生まれるとお話をされていました。
まさにその通りで、多くの方が課題を抱えていると思います。おふたりはジレンマに対してどういうスタンスで何をしていくべきと考えていますか。
星氏:まさにジレンマだらけですね。経営者の観点では、課題ややらなければいけないテーマに対して真正面から捉える必要がありますが、義務的に追い込みすぎて苦しめてはいけないと思います。
多様化した価値観のなかでものや資源は重要ですが、経営においてもっとも重要なのは「人」です。
スターホームのテーマは「みんなちがってみんないい」の精神で、さまざまな事業を建築に付随しながら取り組んでいました。喜んで、楽しんで人生を謳歌し未来につなげるような夢を描けないと、いくら持続可能な未来といっても生活が精一杯だときれいことになる可能性があります。
我々、事業者としてきれいことや理念、崇高な目標の前に「あなたがどうありたいのか」それを「どう叶えていくか」が、人を生かす事業体を構築していく上で大事だと思います。
将来的には社員それぞれがプロとして独立し、小さなヘッドオフィスがスターホームとして生き生きと働ける環境を構築し、課題感などをバックアップできる体勢をつくりたいです。
現状も、入社1年半の女性が民泊事業を立ち上げ、現状は黒字化しています。
トータル的にSDGsや地域活性につなげていけたらいいなと思い、まずは人を生かすところをテーマとして、ジレンマを少しずつ埋めていきたいと思います。
岸氏:数年前に東京都世田谷区で家を計画したときです。施主の方から「縁側をつくりたい」という要望があり、間口4メートルもない100平米以下の土地にどうやってつくるのか。葉山などの土地は、自然に囲まれて水平方向に広い家をつくれますが、東京都内ではそうはうまくいかないです。施主の方の「縁側をつくる」という要望を叶えるにはかなり苦戦しました。
試行錯誤した挙句、水平な縁側を縦方向に積み重ねて、間口側には開け閉めできる建具をつけました。今後こうした工夫は多くの案件でも検討できるポイントになると思います。
伊藤氏:SDGsを進めていく上で経済、環境、社会を三方良しの状態を構築していく、まさにSDGsの理念のなかでも人は外せない要素になりますね。
人文社会科学では昨今、ポストヒューマニズムという概念が注目されていますが、これは人以外のものもあわせて考えていこうという潮流です。
人が進化してテクノロジーが発展するなかで、人が人自体を疑っていくような時代になる可能性も議論されています。
将来の建築はどうなるのかヒントとなる考え方
岸氏:将来的には今より増して、人と人とのつながりを大切にする必要があると考えます。
マイケルサンデルの本でもアリストテレスの言葉で、「人の能力、人の身の丈にあった状態で、人に何かを与えたりするのが正義」という言葉があります。
人と人のネットワークを建築に置き換えると集合住宅や戸建てを考えたときに心地よく住まい続けられるような空間構成を考えていく必要があると思います。
星氏:新素材の発見、AI技術の発達などにより、我々みたいな技術者は必要なくなる可能性があります。建築物が地下に埋まり、外の景色はバーチャルリアリティなど仮想空間になる可能性もあります。建築業界の未来のあり方は考え深いところです。
伊藤先生はどうお考えですか。
伊藤氏:非常に難しい議論ではありますね。
普遍的な話をすると、人と人とのつながりが重要だという点でいうと、ソーシャル・キャピタルや社会関係資本という言葉が浮かんできます。
つながりは瞬間の関係性ではなく、資本として蓄積するという発想が重要です。つまり、積み重なるほど人の幸福感に影響し、豊かな生活につながることが明らかになってきています。
例えば、子どもが遊べる場所は家だけか、それとも家と公園と友達の家なのか、場所の多さが子どもの幸福感につながるという研究があります。こうした議論は建物が地下に埋没した時代だとしても、何か建築を進めていくなかでヒントになることがあるのではないかと思います。
事例として、今はない自治体ですが、四国地方の旧海部町は全国でもっとも自殺率が低いまちであるため有名になりました。これは、私たちが目指すべき地域や建築のあり方だと思います。
地域の特徴で、病を市に出せるような関係性というのがあります。相談したいときに相談できるような関係性であることが重要な要素という意味です。
もうひとつは緩いつながりがあることです。
「つながりって強いほどいいんじゃないか」と思われますが違うんですね。
つながりが強過ぎないからこそ、みんなが生き心地のよい感覚で暮らせるというのです。今後、建築を考えていく上で建物の距離や共有地の議論にも繋がると思います。
家が密集した海沿いのまちでありながらも程よい関係性ができていることは、一見するとおもしろいです。家が密集しているのにつながりが強くないまちを建築デザインや制度でつくっていけるんじゃないか。今回の旧海部町の例は具体的な発想につながると思います。
人を中心に、環境と共存できる設計、建築に挑み続ける
SDGsや循環型社会を建築、設計にどのように盛り込むのか、社会学者の伊藤さんのファシリテーションにより思考が整理され、議論が活発化しました。
循環型社会やSDGsに対して向き合い、業界に留まらず多角的に考え続けることこそが必要になっていきます。循環型社会において大きな存在感を発揮する建築業界、これからも各社取り組みや発信を重ねていきます。