12月13日の「正月事始め」からみられるお正月飾り。株式会社鳶髙橋では東京を拠点に昭和初期から毎年手作りでしめ縄、門松づくりをしています。

2022年は新たな取組みとして、田植えから脱穀まで1年を通して生育させた天然素材でつくる循環型のしめ縄飾りを製作しました。しめ縄飾りをつくってくれたのは、地域ブランディングを通じて出会った長野のみなさんです。

「信州の風を東京でも感じられるように」と話してくれたプロジェクトメンバーの想いや、しめ縄飾りへのこだわりを鳶髙橋代表の髙橋がお届けします。

初めての農作業に苦戦するも、収穫の瞬間に味わう喜びはひとしお

「和かふぇよろづや」さんがオーナー制度で借りている長野県千曲市おばすての田んぼ

まずおこなったのは、なんと田植え作業です。私も体験させていただきましたが、田んぼに入るのは生まれて初めてです。毎回かがむ作業に苦戦し、泥に足をとられながら作業をしました。大変な作業でも、小さい苗がお米となり家庭に届くのだと思うと精が入ります。

しめ縄飾りに使う稲わらを選び出す

小さな苗は2ヵ月ほどで大きくなり、自分たちで植えた苗がお米として育った姿に感動を覚えました。

神が宿ると伝えられた伊勢神宮、御新田由来のイセヒカリ

今回育てた稲穂は伊勢神宮の御神田(ごしんでん)に由来します。平成元年の秋、伊勢地域一帯を強い台風が二度も襲いました。神に捧げるお米をつくっている伊勢神宮の「御神田」も例外なく被害を受け、収穫間際の稲がなぎ倒されてしまったそうです。しかし、そのなかにすくりと立ち、黄金に輝く二株の稲がありました。その稲はどの品種にも該当しない偶然できた新種であったことから、神業として話題になりました。

今回、しめ飾りで使った稲穂は、イセヒカリの種を長野で絶やさずにつないでいる縁起の良い稲穂なのです。

古来より培われた日本の美しい文化に着目

「和かふぇよろづや」の北村たづるさん。着物の文化を発信するイベントも多数実施している

本プロジェクトに企画から携わってくれたのは、長野県にある「和かふぇよろづや」の北村たづるさん(以下:北村さん)です。北村さんは2022年に藍(ai)というブランドを立ち上げ「ほがらかに、なごやかに、たおやかに」をテーマに人とのつながり、和の美を愉しむ場づくりをしています。

北村さんは、海外で生活した経験があります。日本にいるとみえなかった、古来より培われた美しい文化が日本にはあると改めて気付いたそうです。若い人や海外のかたに日本文化を知ってもらい、人や場所がつながっていくストーリーを発信する活動をされています。

北村さん「鳶髙橋さんより、長野の皆さんがつくっているしめ縄を東京で販売してみないかとご提案いただき、2022年11月頃から打ち合わせがスタートしました。全体プロデュースを私が担当し、しめ縄のデザインと製作は清水優香里さん、水引製作は井出景子さんが担当してくださいました」。

信州の地産素材からつくるしめ縄への想い

「わわわ神社」の御利益もあり、「和かふぇよろづや」は多くの人でにぎわっている

「和かふぇよろづや」には「わわわ神社」というご縁がつながる神社があります。「わわわ神社」のしめ縄をみて、丁寧な手仕事だと思い北村さんに聞いてみたところ、清水優香里さん(以下:清水さん)という造園業を営む家系に生まれ、しめ縄の技術を学んだ方がしめ縄を作ったのだと知りました。ご縁をいただき、今回のプロジェクトでは清水さんがしめ縄づくりを担当してくださることになりました。

20年以上しめ縄づくりに携わっているという清水さん

家業が造園業を営んでいたという清水さんは、幼い頃からしめ縄飾りの手伝いをしていました。20年以上しめ縄づくりのご経験があり、ワークショップを開いて技術を伝えることもあるそうです。

清水さん「今回プロジェクトメンバーとしてお声がけいただき、しめ縄づくりの担当をしました。オーソドックスなわらの素材と稲穂がついているもの、水引のシンプルデザインを8種類ほど用意しました」。

神聖なイセヒカリの稲穂を通常よりもぜいたくに使ったしめ縄飾り、輪の部分が二重になっている

清水さん「どのような場所に飾ってもいいように、デザインはシンプルにしながらも、1年の始まりを彩るために華やかさは欠かせないのでバランスを意識しました」。

しめ縄飾りは地域性があり、信州は「輪締め」か「棒締め」のいずれかに松と白い紙をつけるオーソドックスなデザインが主流です。今回は応用として「輪締め」を二重にすることで重厚感を演出、まっすぐ伸びる稲わらの美しさを活かしたデザインにしてくれたのだとか。

五葉松を使ったしめ縄飾り

清水さん「松を使ったしめ縄飾りもつくりました。東京では若松を使う機会が多いと思うのですが、今回は五葉松(ごようまつ)を使っています。ご商売を営む方たちは御用(ごよう)があるようにということで、ゲン担ぎにもなる縁起のよい素材となっています」。

清水さんは東京で正月飾りを手にする方に向けて「田舎で手に入る材料で丁寧につくらせていただきました。実際手に取っていただき、良いお年を送っていただけるとうれしいです」と話してくれました。

300年以上続く伝統の飯田水引

水引は、一つひとつ手作業で色合いやデザインを考えて作成する

しめ縄飾りを美しく彩るのは、全国70%のシェアを誇る、長野県飯田の伝統工芸「飯田水引」です。「暮らしに彩りを添えたいという想いから水引をはじめました」そう語るのは水引づくりを担当してくれた井出景子さん(以下:井出さん)です。

300年あまりの歴史をもつ水引は、お正月飾りのほかにも社寺仏閣のお札用品としても用いられてきました。水引には「人と人との縁を、心と心を結びあう」という意味があり、井出さんもまた、一つひとつに感謝や愛情をこめて手作りをしたといいます。

井出さん「今回飯田まで買い付けに行って自分の目で素材を選びました。水引で使うひもは、紙とは思えないほど丈夫で、無限の組み合わせができます。今回すてきなしめ縄にあうデザインになるように、みんなで相談をしながらつくらせていただきました」。

水引によって表情を変えるしめ縄は、同じものはひとつとなく、個性豊かに彩られています。

お花(オリジナルの名称)
紅白梅ごぼうじめ(オリジナルの名称)

井出さん「新しい人とのつながりを感じられたのがうれしかったです。長野の地産を使うというこだわりがあること、長野と東京とのモノだけでなく人の行き来につながるとうれしいですし、長野を身近に感じていただきたいです」。

日本古来の文化から、環境課題に貢献できるヒントを見出せる

プラスチックを使わないのもこだわり

今回のしめ縄は土に還る循環型素材を使っています。近年海外から環境課題に関する概念が多く入ってきていますが、環境貢献できる手法のヒントは古来から日本が培ってきた文化に多くみられます。

本プロジェクトで、長野の魅力をどのように広げていけるのか。まちからまちへつなぐプロジェクトをきっかけに、地場事業に関わる方々と未来について語り合いました。プラスチックを使わない環境に配慮した新たな価値創造につながったと思います。

東京で飾られる景色を想いながら

プロジェクトメンバー左から北村さん、清水さん、井出さん

新しい年の年神さまを迎えるために家の玄関先に飾るとともに、神棚や、古くは火の神様、水の神様など日常お世話になるすべての場所にも飾っていたというしめ縄飾り。今回のしめ縄飾りは、作り手さんが東京に飾られる景色を想像しながら、愉しんで作成してくれました。

私自身、お米づくりという日本の原風景や暮らしの原点に立ち帰れる体験がお正月文化にひもづく一連のつながりを感じました。神々が宿る日本の伝統や「ハレの日」の文化をたやさないための大きな一歩だと考えています。

毎年提供する鳶髙橋オリジナルの正月飾りも販売予定

しめ縄飾りは新宿通り伊勢丹の近くにある特設会場「お飾りセレクトショップ」にならびます。新しい年の喜びにあふれた、お正月の情緒を彩るお正月飾り。お米づくりから受け継ぐ作り手の想いを紡ぎ、お正月飾りを飾る人の輝かしい1年を祈ってつくられています。

販売期間:12月26日から12月30日の5日間

場所:新宿通り  新宿二丁目東 仲通り交差点 (スターバックスコーヒー隣特設サイト)

鳶髙橋一同も、東京の町々とお正月、新しい年を迎え喜びにあふれた晴れやかな歳になることを願っております。

Editor:Ayaka Sakashita

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