新宿2丁目、仲通りの路地に入るとあたたかい光にいざなわれる……

「弐」と書かれた丸看板に惹かれ店内を覗き見ても全貌を把握することはできず、その様子に足を踏み入れたい気持ちが高まるのを感じます。

そこは2021年7月にオープンした「新宿弐丁目横丁」。2丁目の新たな名所として誕生しました。

路地のような空間を奥へと進むと、高さ3.3mある天井に無数のベトナムホイヤンランタンが輝き、いろとりどりの明かりが夜空に浮んでいるようです。

「新宿公園方面から新宿二丁目の仲通りに渡る通称 ”百合通り”または”L通り”と呼ばれる路地の空に浮かぶランタン、これが新宿二丁目の密かなアイコンであると思い、新たな交流の場所である新宿弐丁目横丁にもランタンを灯しました」

そう語るのは「新宿弐丁目横丁」の設計を担当した「Tobitaka Design Office」主宰 岸雄一郎さん。

今回は岸さんに、「新宿弐丁目横丁」に訪れたときに注目したい設計時のこだわりを伺いました。

「新宿弐丁目横丁」とは

まずは新宿2丁目の新名所として誕生した「新宿弐丁目横丁」の特長を紹介します。

木とガラスで構成されているエントランス。赤い丸看板に書かれた「弐」の文字が印象的です。

それぞれの特長を持つ5店舗が点在しています。

其の壱 牛時 肉料理

其の弐 GANTZ. 韓国料理

其の参 awato 和洋折衷

其の肆 はっちゃけ 家庭料理

其の伍 リズムバー2 クラフトビール

店内に繋がる路地を歩き、目に飛び込むのがベトナムランタンの光。異国に迷い込んだような、非日常体験に心が踊ります。

「新宿弐丁目横丁」で購入できるレインボーエールはオリジナルの商品なのだとか。

見た目のインパクトしかり、クラフトビールならではの深みのある芳醇な香りを楽しめます。

各店舗にはUSBソケット・コンセントが備え付けてあり、Wifiも完備しているため電子機器を持参して一人で飲むのもよし、充電をしながら過ごすもよしと、それぞれの時間を満喫できます。

「新宿弐丁目」完成までの道のり

約60平米に5店舗が連なる「新宿弐丁目横丁」。高い天井と奥行のある店内だからか、不思議と狭い印象は得ませんでした。オープンしてから数か月が経ち、店内には沢山の人の姿が。

にぎわいを見せながらも、どこか心地よい空間がそこにはありました。

「新宿弐丁目横丁」完成前の店内を公開

現在賑わいを見せている「新宿弐丁目横丁」は、もともと建物の倉庫として使われていた場所でした。

鉄筋コンクリート造で丈夫な作りの建物ですが、かなり歴史を感じる印象。どこを生かして何を一新するか、施主、現場監督とのすり合わせは欠かせません。

店内に続く入口付近も今とはまったく違う印象です。

打ち合わせ時の構想を形にする

「“レディーファースト”も死語に思える程ジェンダーレスが進んだ新宿2丁目の空間は、性別は関係なく一人の人間として振舞える自由さと心地よさがある。その心地よさが体感できる空間を作りたい」

設計者の岸さんは30年ぶりに新宿2丁目に訪れ感じた町の雰囲気から着想を得て、打ち合わせに取り組みました。

方向性が決まり、設計図に構想を落とし込みます。

「飲食店の設計で気にすることの一つは席数です、コンセプトに合わせて多くの席数が置ける工夫を施しました」

座席数を確保しながら動線を確保し人々の交流が促せる空間にするために、岸さんは3案を提示しました。

①テーブルから壁の距離を最小限に詰めて座席数を最大限にしたスタイル

②梁に合わせて机を斜めに配置したもの

③ローテーブルを並べた横方向揃えたパターン

結果的にどの図面が採用されたのでしょうか……

実は、この3案はどれもそのまま採用せず、現場に足を運び打ち合わせを重ねた結果、こちらの設計図が完成しました。

入口からハイテーブルが3つ続き、すべての席はカウンターになりました。店内へ足を踏み入れると十字路があり、各店舗が見渡せるつくりになっています。

カウンターにすると、通路が確保されるだけでなく、お客さんと店員の距離感も近くあたたかい雰囲気が醸成されました。

「新宿弐丁目」に行ったら見つけてみて!隅々までいきわたる工夫

「ひとびとが触れる場所に使う素材には日常性を、天井には無数のランタンが浮かぶ非日常性、祝祭性を感じさせる空間的なアンサンブルを企てました」

その言葉通り、「新宿弐丁目」には設計者によるさりげない工夫が張り巡らされています。

世界観を生み出す文字の魅力

引き戸を開いた向かいの壁には横丁の案内板が。実はこのフォント(文字デザイン)は岸さんによるオリジナルデザイン。店内の看板にも採用されている「新宿弐丁目横丁」の世界観を現す大事な要素になっています。

印象的な光の演出

「新宿弐丁目横丁」の象徴ともいえるのが、天井に彩られるランタンです。

天井部分に着目すると、ランタンの光が生えるように黒く塗られています。

主に避難時に活躍する誘導灯のライトも、空間の世界観を壊さないよう梁に付けることで機能性を残したまま空間になじんでいます。

各店舗を照らすライトは昭和レトロを感じるあたたかさを出すためLEDの裸電球を採用。

通常LEDの電球は根本部分がプラスチックでできていることが多く、フロストガラス製の商品を探し回ったのだとか。

電球の位置を自由に動かせるライティングダクトレールも同時に採用し、利便性が高くなっています。

足元にあるのはデザイン性だけでない、あるものが隠れている

カウンターは合板に木部用着色剤で色付けを施し、足掛けに縞鋼板(しまこうはん)という屋外階段の踏み台、渡り廊下で使われる鉄素材を黒く仕上げ木材との調和を図っています。

この足掛け、デザインだけでなく、足下に拘りがあります。

通常店舗の排水はシンク経由で勾配をとりながら道路に流します。5店舗分の排水を流すには床を上げて勾配をつけるのが常套手段です。

空間にゆとりを出すためにも天井高は確保したい。床の高さを変えずに5店舗から出る排水を外に出すためにどうしたらよいか。

岸さんは、工事業者さんと協力をしてカウンターと椅子を少し高めに配置、足掛けの中に勾配をつけて配管を通したのです。

そう、皆さんが腰掛けるカウンター下にはガスと給水と排水が敷かれている仕掛けになっているのです。

吊り棚をよくみると普段は見ない代物が

「吊り棚のフレームには市販の穴あきLアングル、棚板はシナ合板を用いました」

親近感のあるあたたかいコンセプトに合わせて、特別な素材を使わないことを拘ったという岸さん。

「Lアングルは、縦横組み合わせて倉庫の台につかうのが一般的です。それを木材と合わせて棚に用いると見え方が変わります」

ブレースといってギザギザと交互に支えを付けると、揺れにも強い棚ができ上がります。穴の間隔を把握した上でつくった完全オリジナルの棚です。

「工事現場や倉庫で使われる素材を違う形で取り込むとデザインになります」

普段外でよく見るブロック塀でさえ、室内にそのまま置くだけで素敵になる建築建材。

施工完了時の店内は工事前とはまったく別の空間になりました。

建築設計者として「新宿弐丁目横丁」プロジェクトに携わって

「新宿弐丁目横丁」のオープン1か月後、岸さんは家族を連れて店に訪れました。

「設計者として、親の仕事を見てほしかった」

そんな思いを胸に店舗に訪れると、店の方から

「来るお客さんからの評判がとてもいいんですよ、ありがとうございました」

と直接反応が聞けたといいます。

特別な空間で家族全員と味わった食事はすばらしく、至福の時だったと話してくれました。

長男は空間に興味があるようで細かいところを質問してきたり、壁を撫でたりして言葉少ないながらも空間体験を楽しんでいたようです。

新しい場所を見に行く際、食事やドリンクはもちろん、設計者の思いや意図を把握した上で空間設計に目を向けると、よりおもしろい発見に出会えるかもしれません。

written by : Ayaka Sakashita

[ショップdata]
「新宿弐丁目横丁」
〒160-0022
東京都新宿区新宿2丁目14番地11号 フタミビル1階
都営新宿線 新宿三丁目駅 徒歩3分
丸ノ内線・副都心線 新宿三丁目駅 徒歩6分

[建築data]
構造:鉄筋コンクリート造
工事種別:リノベーション
竣工:2021-07
延べ床面積:61.72平方メートル

[credit]
設計:Tobitaka Design Office
担当者:岸雄一郎、髙橋慎治、坂下彩花
施工:(有)市川工業
撮影者:岸雄一郎

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