「伯父さんが新幹線ひかり号の運転手だったんです。鉄道高架下建物の現況調査・リノベーションにあたり、昔この高架橋を伯父さんがひかり号で通っていたんだなと不思議な縁を感じていました。」

高架下建物調査とリノベーションについて語ってくれたのが、約10年にわたる「高架橋補強プロジェクト」の高架下空間リノベーションを担当するTobitaka Design officeの岸雄一郎さんです。

今回の改修を通して約50年越しに光が差し込んだ空間についてお話しを伺いました。

機能性を重視したリノベーション

-今回のプロジェクト内容について教えてください。

築年数約50年になる新幹線の高架橋(線路を支えるために掛けられた連続した橋)を補強するために、高架下建物の現況調査とリノベーションを担当しました。

今回、鉄道会社が行う高架橋の補強において、高架下建物の壁を部分的に撤去する必要がありました。

高架橋補強を行っている間、建物を利用するテナント様には一時的に他の場所へ移転していただき工事を進めていきます。高架橋補強を目的とした、約10年に渡る高架下建物の現況調査とリノベーションプロジェクトです。

-高架下建物の改修設計は住宅や店舗設計と何が異なりますか。

住宅や店舗の設計では、お施主様と打合せを重ねて所要スペースや色彩、空間構成などを一緒に考えていきます。今回の高架下建物のリノベーションでは装飾や色彩に拘るのではなく、事務作業を行う最小限の事務所と実際に物を製作する作業場を少しでもゆったり確保すること、機能性を優先しました。

制限がある中で工夫や仕掛けをどう施すか

-鉄道会社が行う高架橋補強のために、高架下スペースを事務所兼作業場としてリノベーション設計をされたと聞きました。

今回は約10年に渡るプロジェクトのごく一部のリノベーションとなります。高架下には事務所、店舗または作業場を設けている企業が多くあるため、高架橋補強を行っている間は他の場所へ移動をしていただく必要があります。

移動先として利用いただく高架下空間をどう快適に過ごしやすくするか、鉄道会社の意向も踏まえながら、予算の中で最適解を探っていました。

-快適な作業場を作る際、工夫した点について教えてください。

既存施設は倉庫であったため、ほとんど開口部のない閉ざされた空間でした。法的に必要な採光や排煙の開口部面積を確保しながら、事務所や作業場へ光を採り入れるために、開口部を配置しました。

窓は街並みの一部です。殺風景な高架下のイメージを一新すべく、サイズが異なる正方形の窓をランダムに配し、ダイナミックな印象にするという意図がありました。

しかしながら、鉄道会社の意向で既存建物の鉄骨を可能な限り残しながら開口部を設けたいとのことだったので、鉄骨の配置を活かした水平連続窓とし、サイズを変えて配しました。

(縦横に連なる鉄骨に合わせながらも遊び心を入れた窓の配置イメージ)

-自然光の他に、作業場の照明にも気を遣われたのでは。

 高架下の空間は、一般住宅の天井高は約2.4mに対して約2倍ほど高さがあり、鉄道会社からの条件では高架橋床コンクリート(高架下空間の天井のコンクリート)に、照明器具を直に取り付けることはできませんでした。

作業場に必要な明るさの確保、作業場に置かれる機器類の高さに配慮して照明器具設置高さを決め、壁間に軽快な梯子状のワイヤーを配し、照明器具を設置することを考えました。

3m間隔に配される梯状のワイヤーは、高架橋床のある上部空間と人が活動する下部の空間を緩やかに分けています。

(軽快な梯子状のワイヤーに照明を設置) 

-改修中想定外のことはありましたか。

改修前は物資搬入のため、床は地面から40㎝ほどの高さに設けられていました。快適な空間を目指すために地面と同じ高さまで下げる必要がありました。

工事管理者から聞いた話によると、床下に使われた材料は砕石ではなく、大量の丸みを帯びた玉砂利が出てきたそうです。

「玉砂利の丸みが、沈下の原因だったのか?」と工事管理者はおっしゃっており、工法の歴史を知ることになりました。

作業場の全体像(床を下げた分、鉄板が巻かれた高架躯体柱下部は元の柱が剥き出しとなっており歴史が感じられる。この部位の仕上げは後日に行われた。)

社会的要請に応える姿勢を育んでいきたい

今回、高架橋補強工事という国が鉄道会社に要請しているプロジェクトの、高架下建物現況調査とリノベーションに携わらせていただきました。建築設計者として、住宅や店舗のお施主様に満足していただくという側面とは、違った形で関わることができました。

今後、社会的な要請にも少しでも応えていくことができれば嬉しいかぎりです。

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インタビュー協力:Tobitaka Design Office 設計担当:一級建築士 岸雄一郎

出身地:大阪府

1989年 東京理科大学理工学部卒業

1990年 新日鉄情報通信システム株式会社入社

1998年 Architectural Association School of Architecture (AA スクール(ロンドン))留学

2002年 岸雄一郎建築都市設計事務所設立

2019年 Tobitaka Deisgn Office参画

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