建築業界において変わらない点や、時代と共に進化する点とは何でしょうか。

2027年に100年企業となる株式会社鳶髙橋3代目社長の髙橋さんと、25年間1級建築施工管理技士として専門性を高めてきた仲座義友さんにお話しを伺うことで建築「現場」と「職場」で必要なこと、これから求められる考え方がみえてきました。

建築「現場」に求められる2つの安全

「建築以外の職業を選ぶのは想像できないですね」そう語るのは、1級建築施工管理技士の仲座義友さんです。仲座さんは大手建設会社を2社経験し、2020年に鳶髙橋に入社しました。鳶髙橋代表の髙橋さんと仲座さんが思う、現場に必要なこととは何でしょうか。

仲座:建築施工管理技士の仕事は大きく分けて安全管理、工程管理、品質管理、原価管理の4つがあります。現場では基礎、躯体、仕上げの各セクションとの緻密な連携が必要になります。また、施工内容の確認や、伝達事項を共有するのも大きな役割のひとつです。

大きい現場だと数千人規模の職人さんが集まるケースもあるため、人数が増えるほどケアが大切になります。現場の方々の顔色や、普段と様子が異なる場合は積極的に声をかけていますし、何でもいいから相談や質問をしてほしいと日頃から伝えています。鳶髙橋では、働く人のコンディションが最良になるよう、休憩所や仮眠ルーム、女性用の充実した設備を設置し、毎日の食事や健康管理を通じたサポートも重視しています。

髙橋:建築現場の環境や職人さんのモチベーションは想像以上にアウトプットに関係してきます。現場の緊張感が高すぎると、報告や相談を控える空気になり、風通しが悪い環境ではのちのち大きなミスや事故につながる火種を見逃す可能性があります。「この監督なら安心して相談できる」と思ってもらうためにも、職人さんへの声掛けは大切な要素となります。

もうひとつ、欠かせないのは現場の環境整備です。使ったものを都度整頓する、不要なものは分別して捨てる、作業効率を考えて必要なものを置いておくことで現場の安全性を高めます。

現場には足場や安全通路、消化器などを設置し、事故やケガを未然に防ぐための対策を限りなくおこないます。チームで災害防止について協議し、作業中の不安全な行動を洗い出し、是正していく行程は人命を預かる上でとても重要です。

快適な環境つくりや現場インフラの構築では「ムリ、ムダ、ムラをつくらない」環境の整備に努めています。

クリエイティブが刺激される「職場」とは

「20代はまるで部活動に集中するかのごとく駆け抜けた」と話す髙橋さんと仲座さん。2人の出会いは20年以上前に遡ります。同じ現場で働き、お互いの理解が深まった2020年、仲座さんは鳶髙橋に入社をしました。「今は断然のびのびと働けていて現場にもよい影響が出ている」と話す仲座さんの働く環境を紐解きます。

仲座:今の環境は自由でのびのびと仕事ができる環境です。信頼していただいていると感じますし、何か心配ごとがある時はすぐに動いてくれる髙橋社長がいるので現場に集中できています。

髙橋:人は自由に得意な領域で力を発揮した方が輝くと思っています。目的を共有した上で、一人ひとりが能動的に働ける職場の環境をつくろうと考えています。

仲座さんは長年の経験で培った柔軟な思考力と気遣いができる人間性があるので安心して現場をお任せしています。ただ、何かあるときは私が責任を取るので自由に動いて欲しいというのは日頃から伝えています。

仲座:昔は休む暇もなく現場をこなしてきたのですが、鳶髙橋に入ってからは建物を作り出すことの本質をみい出せたように思いますし、視野が広くなりました。現在新たに取り組んでいるのは環境に配慮した管理方法です。たとえば、現場で余った建材をストックして新たな価値を生み出す再利用の促進や、建材ロスをなるべくなくす取り組みです。

髙橋:環境に配慮した取り組みとして、現場であまった建材を再生し、社会に循環させた体験設計を、教育コンテンツや脱炭素を学ぶ機会と捉え活用しています。鳶髙橋が提唱している持続可能な社会に貢献する「サーキュラー建築プロジェクト」では、工事現場から発生した廃材を活用した椅子や小物をつくり再生させるワークショップ「工作でカーボン・ニュートラルを学ぼう」を長野県で実施しました。

サーキュラー建築の実装へ向かう意識は、建物をつくる以前の設計段階までさかのぼり、廃材やゴミを出さない建物の創造を目指そうという、未来の建築様式として定義しています。

仲座:鳶髙橋は環境課題に対する取り組みや「東京文創」に紐づく文化創意事業にも力を入れているのが面白いです。

髙橋:社会課題や地域課題を体感して学び、建築に取り入れ続けることはこれからは必須です。文化を重んじながら、新しい価値を提供することが「東京文創」という考えに直結します。こうしたクリエイティブな要素も、働く環境に余白や安心感があるからこそ力が発揮できるのだと思います。

建築施工管理技士として必要な要素

25年間現場に立つ仲座さんいわく、建築施工管理技士を取得するために必要なことがあるそうです。複数の現場を受け持ちながらコミュニュケーションやマネジメント、品質の管理といったマルチタスクをこなすために必要なこととはなんでしょうか。

仲座:今まで数百にわたる現場に携わり、あらゆる状況を乗り越えてきました。安全管理、工程管理、品質管理、原価管理という仕事をこなすために必要なのは、ブレのない決断や実装力です。

職人さんや近隣住民の方とのコミュニケーションといった現場仕事と、技術力の高い業者の選定や予算管理、報告書の作成といったマルチタスクが同時に求められるので、いわば体力勝負です。目標をしっかり定めてやりきれる人が向いているのではないでしょうか。

髙橋:建築の現場では、どんなに机上で完璧な段取りを組んでも必ずといっていいほどイレギュラーが起きます。予期せぬ天候など自然の脅威にも影響を受けます。

実務では自治体との連携、近隣住民との協調など現場ごとに学びや得るものがあるともいえます。想定通りに進まないこともある仕事ですが、完工時に得られる達成感は何物にも代えがたいです。

技量が試されたイレギュラー案件

2023年1月に完成した板橋区仲宿の中高層デザイナーズマンション。実は、本案件はプロジェクトが予定通りに進まず困っていた事業主からのご依頼で、建築途中から担当した案件なのだとか。想像以上の労力が必要になる建設途中の案件にどのように対峙したのでしょうか。

仲座:案件の相談をいただいた際、予定していたゼネコンが破綻したことから鳶髙橋で案件を任せてもらうことになりました。途中から工事を担当する場合、工事進捗の確認やスケジュールの引き直し、設計通りに施工されているかなど入念に調査する必要があり、多くの場合新規の建築作業よりも工数がかかります。本案件も例外なく、書類の申請、現場の手配、施工図の調査、補填作業をおこないました。

髙橋:現場管理は設計と施工のあいだになる干渉地帯で実力を発揮します。例えば設計案には規格外、法令外などそのまま現場に適応できない図案になっている場合もあるので、設計の意図をくみながら最適解を探りだす力が求められます。今回は前提の見直しが必要だったので、仲座さんだからこそ対応できた案件だと思います。

2023年以降の建築に求められる考え方

最後に、鳶髙橋が変わらず守っていくことや、今後建築を考える上での考え方について伺いました。

仲座:大変なことはありますが、やりがいは本当にありますね。ある物件が完成した後、出来上がった物件をみてオーナーさんがとても喜んでくれたのが印象的でした。完成後の建物を気に入り、新たな案件の依頼がくることはまれにあります。15年以上経つ今でもお声がけくださっている方もいます。

髙橋:鳶髙橋のスタッフに共通するのはクライアントや事業主といったステークホルダーとのコミュニケーションに抜かりなく、あたたかい人柄でご縁をつなげていることです。そのうえで、鳶髙橋は設計と建築と不動産の領域をシームレスにつなげ、クライアントの要望に寄り添うことができます。

建物を建てるだけで完結してしまうのではなく、どうやって人と人とがつながっていくかというコミュニケーションをデザインすることも設計という行為だと考えています。世界がサスティナビリティやSDGsといった方向性に向かう変化をキャッチアップするのは大切な視点ですが、そもそも日本の伝統建築では昔から循環を意識した技法を取り入れています。そういった文化や伝統に根差しながらアンテナを張っていくことで、真に価値を創造できるのではないでしょうか。

建築は地球上のすべてに関わりのあるものではないかと考えているんです。人の考え方やコミュニケーション、多様性を意識し考え建物に思考を反映していくことがデザインであり設計です。仕事をやりきり、人とのつながりを大切にしていく、鳶髙橋の様々な取り組みを今後もみてもらいたいですね。

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