こんにちは。株式会社鳶髙橋コミュニケーションデザイナーの井口啓太です。年末に差し迫るなか、新宿駅を降り、繁華街を歩いていると、ひときわ目立つ人だかりが目に入ります。人々が向かう先には花園神社で毎年11月に開催される酉の市、別名「大酉祭(オオトリサイ)」の姿が。多くの参拝客が訪れることで知られている伝統行事の盛り上がりに圧倒されながら、鳶髙橋が代々携わっている酉の市の華やかさ、文化の深みを体感してきました。昔から変わらず大切にされている想いや、訪れる人や携わる人による変化をインタビューを交えてお伝えします。
酉の市の熊手に込められた願い
新宿区の花園神社で開催される酉の市は、台東区の鷲(オオトリ)神社、府中市の大國魂(オオクニタマ)神社と並び「関東三大酉の市」、「江戸三大酉の市」といわれています。来場者は50万人以上を超え、商売繫盛の祈願に訪れるお祭りとして地元のみならず、海外からのお客さんもいらっしゃっています。
境内に入ると、熊手を売る方の威勢のいい掛け声と拍手が響いており、思わずつられて拍手をしてしまいました。お話を聞いてみると、熊手には「福を掴(つか)んで離さない」、「福をかき集める」などの意味が込められているそうです。
熊手は農具として落ち葉や収穫物をかき集めるために使われているもので、鷲が獲物を掴んでいるようすに似ていることから、縁起物として扱われるようになりました。酉の市の熊手は、年々大きいものに買い換えていくのが習わしで、通り過ぎる人のなかには1m以上ある大きな熊手を持っている方もいました。
変化しながら受け継がれる日本独自の伝統文化
境内を進んでいくと、屋台が立ち並ぶ通りに出ました。人形焼きやたこ焼きなど、お祭りの象徴ともいえるような香りに心をひかれつつ周りを見渡すと、想像していたよりも若い方やお子さんを連れた方が多いことに気が付きました。酉の市は商売繁盛を願う方々だけでなく、地域のお祭りとして幅広い年代の方に愛されているのだと感じました。
酉の市に宮頭として長年携わってきた渡辺さんにお話を聞いたところ「毎年訪れる人には変化がありますよ。新宿という土地柄、昔から夜の営業をメインとする飲食店の方々の来場も多く盛り上がりをみせていますが、海外旅行者やお祭りとして参拝・屋台を楽しみに来る若い方々が相当数増えています」とのことでした。
渡辺さん「コロナ禍で規模を縮小するなどの対応に追われ、どうなることかと心配したけれど、またこのような活気を取り戻せて嬉しい。次の世代へ受け継いでいきたい」というお話もありました。受け継がれてきた伝統が少しずつ変化しながら、現在まで続いていることは感慨深いです。
拝殿にたどり着くと、圧倒的な提灯の輝きに目を奪われました。1,000張近く奉納された提灯は夜を照らし、商売のいく末も明るく照らしてくれるようでした。その輝き、美しさに言葉はいらず、日本の方も外国の方も一様に提灯をみつめ、感動しているように思いました。私自身、初めての参加にも関わらずどこか懐かしさを胸に提灯をみつめていました。2022年からは提灯の光源が変更されており、持続可能なお祭りとして伝統を守りながらも最新技術との融合がなされています。
参考記事:花園神社 大酉祭に使用される提灯全950個をパルックLED電球に交換~祭りが開催される6日間で杉の木約3.8本が吸収するCO2排出量を削減~
華やかな祭りを支える職人たち
そんな提灯の骨組みや熊手の出店者管理や売り場の組み立てをしているのが鳶髙橋を含む職人の皆さんだということを知り、あらためて職人の誇り高い姿を目撃しました。綿密な準備から華やかな現場をつくり上げ、お祭り本番ではどこか誇らしげな表情を浮かべつつお客さんの安全を守りながら迎える姿にひとりの男として憧れと尊敬の念がわいてきました。
海外の方も引き寄せる酉の市の魅力
海外から来る観光客に声をかけたところ、アルゼンチン出身のご夫婦とお話する機会に恵まれました。偶然新宿にホテルをとったところ、賑わいをみせるきらびやかな場所があるのでインターネットで検索をして訪れたそうで「こうした文化は日本ならでは、提灯だけでなく願いを込めて毎年熊手を手にする文化が美しい」と感動されていました。彼らの手元にも熊手があり「私たちはビジネスはしていないけれど、猫を飼っているのでお土産として猫の人形がついている熊手を買いました」と可愛らしい熊手をみせながら、日本の観光を楽しんでいると写真で訪れた場所を教えてくれました。帰国したら酉の市のことを友人に伝えたいと笑顔で語るご夫婦に、こうして日本の文化が感動とともに広がっていくんだと実感しました。
世界に誇れる酉の市を受け継いでいく
酉の市を代々支える鳶髙橋の代表髙橋もまた「文化的背景や歴史を知らなくても、花園神社の四季折々の行事と文化が息づく、由緒ある神域の華やかさは人の心に訴えるものがあるのではないでしょうか。1年無事に過ごせたことへの感謝と商いや各々の活動に従事する決意が集まる場ですから、酉の市はいるだけで活力が湧き出ると思います」と酉の市が持つ独特の魅力を語ります。
コロナ禍で規模を縮小していたなかでも絶やすことのなかった伝統。受け継ぎ、伝えていく営みで紡がれる世界に誇れるお祭り。それぞれの願いを胸に集うお客さんとその願いを威勢のいい声と拍手で応援する露天商の方々。境内には来年への希望と願いがあふれていました。願わくば、皆さんの願いが叶い、幸せが訪れますように。