「世の中に、もっとワクワクを。」をスローガンに掲げ、大量の泡にまみれて踊る体験型イベント「泡パ(泡パーティー)」や、120万枚の桜が舞い散るコンセプトバー「SAKURA CHILL BAR by 佐賀」など、常識を越える体験型イベントを次々と生み出すクリエイティブカンパニー「Afro&Co.」設立者、アフロマンスこと中間さん。そんな彼が仕掛けた、人々を熱狂させたイベントが「脳汁横丁」です。
このユニークなイベントの裏側には、どのような仕掛け、コンセプトがあったのでしょうか。今回実施した「CROSS-東京文創-」の対談で株式会社鳶髙橋 代表取締役の髙橋慎治が、アフロマンスさんに人々が熱狂するイベントの本質を伺いました。

「脳汁」が示す、人間の本”脳”的な幸せ

写真:≪イベントレポート≫イキすぎた愛と欲望のフードフェス『偏愛横丁
過去イベント写真より

「脳汁横丁」は、大手パチンコ企業の株式会社マルハン東日本カンパニーが主催するイベントから始まりました 。「偏愛横丁」という「ディープな横丁型新感覚フェス」にてアフロマンスさんは、映画『翔んで埼玉』から着想を得た「そこら辺の草食堂」を企画し、マルハンと意気投合 。この出会いを機に、「脳汁」と「偏愛」をキーワードに、多様な「脳汁が出る」瞬間をテーマにしたイベントシリーズがスタートしました。これまでに「脳汁銭湯」や「脳汁スタンド」を経て、今回はイキすぎた愛と混沌のフードフェス「脳汁横丁」へと発展しました 。
アフロマンスさんは、「脳汁」について「アドレナリンやドーパミンといった脳内物質全般が”脳汁”」だとし、究極的には「人間は脳汁のために生きてるんじゃないか」と独自の考えを共有してくれました。
アフロマンスさん「私たちは衣食住以外に、なぜ音楽を聴き、旅行に行き、映画を観て、エンターテイメントを楽しむのでしょうか?その根源には”脳汁”が出る体験を求め、”脳汁”がでることで幸せになるといえるのではないでしょうか」

脳汁横丁の会場でひと際目立つ「脳汁やぐら」( photo by きるけ。)

「幸せ=脳汁」この考えにもとづき、「脳汁横丁」では、食と空間全体を通して、多角的な「脳汁体験」の提供を目指した空間設計が実現しました。会場でひと際目をひくのが、中心にそびえ立つ巨大な脳みそバルーンが鎮座する、鳶髙橋が制作に携わった高さ約5.5mの「脳汁やぐら」です。さらに、脳汁空間の奥で待ち構える約150個の提灯に映像を投影する「提灯マッピングステージ」でのDJやアーティストによるパフォーマンス、供給口から色鮮やかな脳汁ドリンクが注がれる「脳汁スタンド」も登場しました。さまざまなジャンルで活躍するユニークなクリエイターたちとコラボし、ドリンクやフードに「脳汁」要素を融合した9つの「脳汁屋台」も関心の的となりました。来場者 1人ひとりの五感を刺激し「脳汁」がドバッと出るような多角的な仕掛けが満載な、音と光がシンクロする世界観が広がっています。

ロジックを超え「人生はお祭り」と捉える

約150個の提灯に映像を投影する「提灯マッピングステージ」を背景に対談をおこなった

株式会社鳶髙橋代表の髙橋もまた、アフロマンスさんの考えに深く共感しており「人は脳汁に操られている」と発言。日常のなかに「”脳汁”が出ている」状態こそが、鳶髙橋が目指す「ウェルビーイング(幸福度の高い生き方)」 と重なります。

アフロマンスさんのクリエイティブの核にあるのは、「Imagination First(想像第一主義)」です 。アフロマンスさんは「理屈は重力だ」と表現し、常識という見えない重力に縛られず、1度それを忘れて「こんなことができたらおもしろいよね」という純粋な「想像」から企画を始める重要性を説かれました。企業や行政との仕事においても、まずは「みんなが熱狂する何か」を創造することで、結果的に人や経済効果がついてくると、信念を語ってくれました。

「人生はお祭りだ」対談のランドマークとなる言葉を紡ぐ鳶髙橋代表の髙橋

髙橋「世の中にあるさまざまなものはロジックのなかで出来ているが、そのロジックに縛られすぎている人もいます。これを越境した精神の状態で、ワクワクすることや楽しいことを想像できる状況こそが”人生はお祭りだ”と捉えることにつながります」

髙橋は、自身の経験からも「事前に決めた予定が、現場で予想をはるかに超える瞬間にワクワクする」という 。予測不可能な未来にこそ「”脳汁”が出る」瞬間が潜んでおり、それを楽しむ姿勢こそが幸福であると強調しました。

ロジックは失敗しないために、幸せには偶発的な体験が必要

「脳汁横丁」の総合プロデュースをおこなったアフロマンスさん

アフロマンスさん「ロジックや計画は失敗しないために必要ですが、幸せになるためには予定調和ではない”偶発的なセレンディピティ”が必要で、これこそが心躍る体験を生み出すと思います。『機動戦士ガンダム』の宇宙と交信する”ニュータイプ”のごとく、企画立案は制約にとらわれない発想の柔軟性が必要なんですよね」

「重力からの解放(飛躍した想像やアイデアを考える)」と「地上に戻る(現実的な形にする)」この往来が、イベントづくりには重要だと語られました。企画段階では徹底的に自由な発想を、具現化の段階ではチームや予算、安全面といった現実的な要素を考慮し、理論と空想を行ったり来たりを繰り返すことで、最高の体験が生まれるのです。

アフロマンスさん「人々を”熱狂”させるイベントを生み出すアプローチとして、”未体験の創造”が大事だと思っています 。”泡パ”や”SAKURA CHILL BAR by 佐賀”のように、「体験したことがない」状態を創り出すことで、人々を魅了する 。しかし、その”未体験”が何をいってるかわからないレベルまで過剰にならない、ある程度想像がつくラインを意識しています、そうでないと人が付いてこれないからです」絶妙なバランスを保つのが、仲間を集め、大衆に受け入れられる企画を生み出し、実現する秘訣なのだといいます。

「熱狂」を生み出すための仲間選び

制作中の「脳汁やぐら」、基本準備はすべてオンライン連携によって実行した

ともに「脳汁」を生み出す「場」をつくる上で「仲間」の存在は不可欠です。アフロマンスさんが協調するポイントは「共通の世界線をみているか」、そして「バイブスが合うか」です。特に「ちょっとはみ出してる人」が輝いてみえるそうで 、世の中のモノを消費するだけでなく「何か自分たちで作り出そう」と思いを持つ「作り手」たちと共鳴し、新たなプロジェクトを形にしていくとおっしゃいます。

「バーニングジャパン2024」で協働制作したUFO型のDJブース

アフロマンスさんと「脳汁横丁」の舞台制作を担った鳶髙橋は、以前から「作り手」として関わりがあります。音楽もアートも食も、全て参加者の持ち寄りで生まれるイベント「Burning Japan」では、アフロマンスさんがプロデュースするUFO型DJブースの制作に協力しています。型破りな発想を形にするアフロマンスさんのクリエイティブと、それを技術で具現化する鳶髙橋が独創的なDJブースを通じて融合した事例はまさに「非日常」の体験を創造した瞬間でした。そんな同じバイブスを持つ両者にとって、「脳汁横丁」の舞台制作は、「脳汁」を出し合いながら実現した協業の発展形となりました。

1万人以上が熱狂したイベントとして成功を納める

「脳汁横丁」の空間を、全員が「脳汁」を出しながら協力してつくりあげた

「人間は脳汁のために生きている」というアフロマンスさんの言葉は、単なる刺激の追求ではなく、私たちがいかに「ワクワク」や「熱狂」を本能的に求めているかを教えてくれました。重力(常識)を越え、純粋な想像力から「未体験」を生み出すアフロマンスさんと、それを積み重ねてきた技術と「遊び心」で具現化する鳶髙橋。この2人の「作り手」が出会ったのは、まさに「セレンディピティ」が生んだ最高の化学反応でした。

「脳汁横丁」は、人々が「脳汁」を出しながら熱狂し、人生を「お祭り」として楽しむことができる「場」として1万人以上が訪れました。鳶髙橋が推進する「東京文創」は、江戸・東京の街を考え、守り、作ってきた鳶のバックグラウンドから、遊び心を忘れずに持続可能な未来を目指してまちづくりに向き合い、そのために必要な一人ひとりが「熱狂」し「夢中」になれるスタイル、在り方を指しますが、今回の「脳汁横丁」はその精神を具体化する機会となりました。常識と想像、日常と非日常を自在に行き来し、そこに喜びと熱狂をみい出す姿勢を大切に「生きることってすごい楽しいんだよ」と世界がシフトすることを願って……同じ想いをもった仲間との歩みはこれからも続きます。

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