晴天のなか和やかな雰囲気ではじまったCROSS-東京文創-対談

信州の雄大な山々を背景に心地よい日差しが降り注ぐテラス。澄み切った空気の中で始まったのは、株式会社鳶髙橋がプロデュースをした「萬屋ビルヂング」での「CROSS-東京文創-」対談。舞台となった「萬屋ビルヂング」は「食べて、働いて、遊んで。つながって。幸せが始まる喜び処」というコンセプトをもち、レストランカフェ、サテライトオフィス、サウナ施設、コミュニティスペースが一体となった交流施設です。

今回「萬屋ビルヂング」のサテライトオフィス入居者と対談するテーマは、この施設にふさわしい「WORK × LIFE × VIBES」です。仕事と遊び、創造と日常の狭間で生まれる熱狂を体現したこの場所で「今、人間にとって働くという行為は何なのか」という問いに光が当たります。

熱狂が生んだアクション、萬屋ビルヂングの起源

ホテル時代の看板も残っている

長野県千曲市を拠点に活動する地域プロデューサーの北村たづるさんは、和かふぇよろづやの幸おかみであり、「萬屋ビルヂング」の運営責任者です。長年に渡り地域のハブづくりを推進する北村さんに「萬屋ビルヂング」の歴史を伺います。そして、かねてからサテライトオフィスを作ることを夢見ていた「萬屋ビルヂング」プロジェクトに欠かせない人物、千曲市役所企画政策部 公民共創推進室 共創推進係主査の藤森雅史さんより、プロジェクトの経緯を伺います。

萬屋ビルヂングに続く、150年以上の歴史

和かふぇよろづや9周年を祝う花束と北村さん

北村さん「ここ”萬屋ビルヂング”は、150年ほど前は”よろづや旅館”として多くの宿泊者を迎えていました。コンクリート舗装されていない道には馬車が走っていたんです。愛されながら運営していた場所は、時を経て”ホテルよろづや”として生まれ変わり、40年間営業したのち幕を閉じました。当時、私は起業をしており、長野市でお菓子工房をやっていました。ちょうど女性の起業家育成や、イベントで賑わいを起こしたいと考えていたところ、当時市役所でまちづくりを担当されていた方から”空き店舗を活用してお店を開かないか”というお声がけをいただき、2017年に”和かふぇよろづや”をオープンしました」

人は美味しいものを口にすると、心も表情もゆるんで“解け”、仲良くなると、お菓子作りを通じた経験を振り返る北村さん。人がつながりコトが起きる過程に幸せを感じるという北村さんの願い通り、「和かふぇよろづや」は食を中心につながりが生まれる場として、大学生がまちづくりのゼミを実施したり、地域の祭りやイベントを起こしたりと、数多くの新規プロジェクトが誕生しました。2023年になると、地域のハブであり憩いの場である”和かふぇよろづや”の2階、3階を活用するプロジェクトが始動しました。

北村さん「コロナ禍に2階でお弁当を提供できる環境を整備し始めたのですが、旅館時代からの荷物があふれ、足の踏み場がないほどでした」

そこで立ち上がったのが市役所に勤めている藤森さんです。20人ほどを引き連れ、まさに人力で1年以上かけて片付けが実施されました。

創り手の情熱と「人」から始まる共創

藤森さんとサウナ前に配置された鷹の置物

「成せばなる」という座右の銘を持つ藤森さん。とにかく行動したいという想いで、市役所勤務の傍ら、副業やイベント企画を実施する過程で北村さんに出会い、かねてから実現したかったというサテライトオフィス構想を進めました。

藤森さん「千曲市は製造業の誘致が進んでいるのですが、就職の選択肢をもっと増やすためにサテライトオフィスやリモートワークでもできる仕事を引き込みたいと思っていました。そのタイミングで北村さんから「(現”萬屋ビルヂング”の)3階が空いてる」と言われ、直感が働き、翌日には雪の降るなか見学をさせてもらいました。本当に荷物だらけでどうやってサテライトオフィスにするんだろうと思いつつも、職場内で議論しながら、サテライトオフィスや交流の必要性を話し合いました」

現在では東京に籍を置く会社を含め7社が入居する「萬屋ビルヂング」。さまざまな企業が入居し、学生にとって製造業以外も選択肢を示せる良いスタートがきれたと語る藤森さん。「成せばなる」の精神でこれからもイベント実施やプロジェクトに取り組みたいと意気込みます。

藤森さん「東京の企業が来て”萬屋ビルヂング”で楽しんで過ごしてもらう施策として、サウナ導入のアイデアがプロジェクトメンバーから出てきました。サテライトオフィスに入居している企業はもちろん、地元の学生、地元企業が交流できる“会議の場”にもなればいいと思っています。サウナは医学的に“脳が活性化されて企画会議に向いている”と言われています。たとえば商店街を使ったイベントを入居企業と地元住民で一緒に起こすなどまさに”WORK”を通じて”LIFE”の幅が広がっていくと思っています。」

萬屋ビルヂングに携わったメンバー全員の共通点は、やると決めたら絶対ひかない強いエネルギーがあると語る藤森さんはご自身について、人を“巻き込む”のが好きだし、ピンポイントで必要な人に出会える運があると語ります。

藤森さん「片付けを手伝ってくれた方々は、まさにプロジェクトメンバーやこの場所に漂う”VIBES”に合致する人達です。今回のテーマにもあるバイブスは、生きていくうえで大事になってくる観点だと思います。“バイブスセンサー”をアクティブにしておくと、いろんな出会いや交流、自分が”やりたいけどできなさそう”と思ってたことが実現するきっかけになると思います。」

働く上で大切な考え方

内覧会には多くの方がお祝いに駆けつけた

ヤフー株式会社などで人事職をされたのち、2020年に長野県に移住。現在は公民学連携組織の地域コーディネーターとしてまちづくりや地域づくりを推進、2025年にはあすしらべ合同会社を立ち上げた調 恵介さん。また、中学校教諭の経験を経て現在『まちFeminity arch WORK LOUNGE Chikuma』のオーナー、「APRICOT」フリーランスコミュニティの代表を勤める大日方絵里さんより、働くうえで欠かせない心理的安全性、萬屋ビルヂングでの活動を伺います。

働く環境での心理的安全性(サイコロジカル・セーフティ)

萬屋ビルジングでは、いたるところで交流が生まれる

調さん「会社は東京なのですが、千曲市には、まちづくり・地域づくりの調査や研究でよく来ていました。千曲市は、高速道路も交わっていますし、人や物事が行き交うようなイメージがあり、すごくほっとする場所です。働く上でパフォーマンスに大きく影響する”心理的安全性”は職場環境に限らず、千曲市のように、いろんな人が交わる環境にも生まれやすいと言えます。誰か特定の人が影響力や力を持つのではなく、さまざまなバックグラウンドを持つ人が集まることでうまれる発信のしやすさがあると思います」

まちづくりの研究をおこなう調さんが「萬屋ビルヂング」と出会ったのは、プロデュースを手がけた株式会社鳶髙橋の代表、髙橋のSNSがきっかけだったそうです。入居募集の投稿に連絡をした数時間後には萬屋ビルヂングのサテライトオフィスに訪れていたという調さん。案内された瞬間に感じた心地よさに、即決に近い形で入居を決めたのだとか。

髙橋「東京に籍を置く会社が県外に進出する際、会社として慎重な判断がなされると思います。スタッフの安全性や業務内容の連携など不安要素が生まれるからです。東京の会社が長野にオフィスを持つことで生産性がどう変わるのか、一種の実験としても今回調さんは挑戦しているように思いますし、調和を重んじながら楽しんでコミットされている調さんならこの環境下で会社のミッションも実現できるのだろうなと感じています」

調さん「最初はサテライトオフィスを場所や便利さで選ぼうとしていました。ところが、髙橋さんと話していて、先輩経営者もいる安心感、仕事も遊びもいろいろ教えてもらえる環境はまさに心理的安全性に溢れていて、生活が豊かになることで仕事にいい循環をもたらし、楽しく過ごせると思いました。実際に入居をして思うのは、その時の感覚は本当に間違っていなかったということ。軽井沢や東京に行きやすいという物理的な交差と、入居企業や地元の人々との交流、全てがクロスするこの場所を楽しんでいます」

萬屋ビルヂングが女性活躍の足がかりに

大日方さんが日々活動するオフィス

大日方さん「私は”まちFeminity arch WORK LOUNGE Chikuma”という、女性の働き方や、自分らしい働き方をテーマに、心に向き合いながら安らげる、無理をせずに、自分のペースで仕事ができる、第三の場所を提供しています。以前、活動の一環として参加した”居場所づくり講座”にて、”和かふぇよろづや”幸おかみである北村さんと出会いました。出会いのタイミングがとてもよく、とんとん拍子で”萬屋ビルヂング”への入居が決まりました。

女性のスタートアップ支援を推進するうえで、”萬屋ビルヂング”を舞台に女性のピッチ大会を開催させていただきました。メンターとして高橋さんと北村さんにお越しいただき、2人のお話しを聞いた多くの参加者が目を輝かせていました。そうした活力や新しい風を生む息吹がこの場所で生まれています。私はサテライトオフィスに入居して、高橋さんや入居者の皆さんとのお話しを通じて視点が広がったと実感しています。」

女性のピッチ大会では家庭を持つ女性たちが「社会にいいことをしたい」「自分の持っているものを還元したい」「ありがとうと言われることが自分の財産になる」と語っていたそうです。いろいろな形の豊かさを実現する場としての気運が生まれています。

バイブスを生むための空間設計

萬屋ビルヂングの入居者ロゴが記載されたタペストリーの前で

萬屋ビルヂングの全体プロデュースを担当したのが株式会社鳶髙橋の代表、髙橋慎治です。高速Wi-Fi、高度吸音材付き共有スペース、サウナでリラクゼーション、テラスで空を見上げながら心の内を開放し、カフェや美味しい食事で心を満たしながら交流し、入居者や訪れた人が町の人と一緒にイベントをしたりコトが起き、輪が広がっていく。関係者の夢を形にしながら、全てが循環するような空間を作るうえで重要視したこととは。

髙橋「実は当初から、”VIBES”が生まれる場所になることを計算して設計していました。もちろん、人の出会いや出来事はセレンディピティなので、入居者さんなど、結果はコントロールできないものの、セレンディピティが生まれる設計は再現性があるんです。つまり、計画できるものだと思っています。重要なのは遊び場ではなく、仕事というビジョンを持つ、気の合う仲間たちが集まり、そのメンバーがやりたいことを持ち合えること。活動や生産性に直結する食事や、リラックス、相談や交流ができる環境がそろえば各々のエネルギーが生み出され、「熱狂」へと進化します。その熱狂がまさにVIBESの合う人、プロジェクトを惹きつける火種となり、広がっていくのです」

プロジェクトメンバー全員の声に耳を傾け、心の内側を公開し合うような時間を楽しんでいたという髙橋。肩書きも知らぬまま汗だくになって片付けをして、一緒に食事をして気が付くと夜になっているほど没頭する時間からスタートした萬屋ビルヂング。髙橋が大切にしているのが、ロジックだけでものごとを考えないバランスです。

髙橋「理論上完璧な計画も、結局ロジック通りにはいかないことがほとんどです。ロジックがもし “成功のための道筋” 、“失敗しないこと”だとするなら、それは決して “人が幸せになること”とは同義ではありません。ロジックだけで人は幸せにはならないことを、このプロジェクトで改めて強く実感したんです」

未来が不確実という前提のもと、まずは“実験してみよう” 、“つながりをビルドしてみよう” と自然発生的に活動が生まれやすい空間を大切にしているという髙橋は、”萬屋ビルヂング”を通じて生まれる新たな出会いや活動を見ていること自体がまさにウェルビーイングだと、幸せを噛みしめます。

髙橋「メンバーが同じ方向を向き、ワークの延長線上にやりたいことが実現できる環境だからこそイノベーションが起きるし、人生を変えるような”素敵な瞬間”を生み出します。働きがいと生産性は、”食べる”、”健全に遊ぶ”、”未知の体験で感動する”といった要素と密接に関わっています。さらに”整う”体験や、”私一人じゃない、みんながいる”と”心理的安全性”を感じられる環境が、働く人全員にとって大きな力となります。

人生の長い時間を占める、働くという行為に対し、私たちは受動的な働き方や旧来の達成計画を見つめ直す変革を、小さなことから起こしています。能動的に働くことで、モチベーションや生産性がどう変化するか。そのプロセスを皆さんと共創し、一つひとつの瞬間を楽しみながら、時代の変化とともに新しい未来に生きる。この拠点をみんなで楽しみながら活用していくことが、私たちの願いです」

登壇者達のVIBESも上がっていく

萬屋ビルヂングで巻き起こるムーブメントは「働く」という定義を見直すほどのインパクトがあります。この場所を通じて地域や働く人たちがつながっていく世界線にはどんな未来があるのか。オフィスとして仕事をする場所、共有スペースでつながる場所、食べる場所、イベントで遊ぶ場所が一体化している、循環する場所である萬屋ビルヂングはこれからも文化を作っていく拠点となりそうです。

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