穏やかな光が差し込み、自然と目をつむりたくなるような安心感を覚える場所。コンベンションルームと名づけられたその部屋は62年の歴史を従えた支柱が佇み、安心感とともにこれから起きる物語を語り合いたくなるような気持ちが沸いてきます。
歴史とモダンな空間設計が融合した空間「ゲストハウス旅館相生」は2024年2月29日に公開されました。訪れる方それぞれが口にした感動や想いと共に、人と、自分と向き合いたくなる不思議な時間が流れる空間が完成するまでの軌跡をたどります。
62年の時を越えてつながる温もり
「ゲストハウス旅館相生(当時:旅館相生)」は、長野県上田市で料理屋を営んでいた現オーナー、林欣克さんの祖母にあたる林マサさんが、昭和36年に開業しました。下駄の音がにぎやかに感じるほど観光客で溢れていた時代が過ぎ去り、平成3年ころバブル崩壊とともに旅館相生は幕を閉じることとなりました。
多くの方に安らぎと笑顔をもたらしてきたこの空間を復活させたい。林さんは約30年前に旅館を引き継ぐことを心に決め、調理師免許の取得、宿泊施設の研究など準備を重ねてきました。ご自身の病気も乗り越え、後悔しない人生を生きようと行動し続けた結果「ゲストハウス旅館相生」を再開させました。
過去の旅館を知るお客さまや近隣に住んでいる方々は、再び日の目を浴びた「ゲストハウス旅館相生」に入るやいなや「当時の懐かしさもあるし、洗練された雰囲気も相まって本当にすてきね」と感嘆の声をあげ「近所だけど泊まりに来ますよ。しばらくここでゆっくりしたいと思います」。と感想を共有してくれました。
「この工事に関われて本当に幸せ」類まれなるチームワーク
「ゲストハウス旅館相生」の工事を担当した株式会社鳶髙橋、代表の髙橋慎治は「この工事に関われて本当に幸せです」と工事を振り返ります。
髙橋「当時の旅人を癒やした昭和ならではの安心感を提供したいという、オーナー林さんの気持ちにとても共感しました。自然と長期滞在したくなるような場所にするために、既存の歴史ある要素を生かそうと考えました」。
髙橋「古くから続く工法や素材の質感は再現が困難なだけではなく、劣化が進んでいる素材は取り除いて新調したほうが工事が楽になるケースが往々にしてあります。しかし、温かみ、安心感を残すうえでは竹細工や古くから使われていたドアの格子、ガラスを活用することに意味があると思うんです。新しく付け加える家具、照明も、大正ガラスのようなアンティークの風合いのものを選択して全体のストーリー、調和を大切にしています」。
工事にかけるこだわりは職人さんにも伝わっていたそうで、庭を照らす照明や空調の位置など、施工チーム各々が工夫をして創り上げている場所も多くみられます。
髙橋「全体コンセプトや林さんの想いを伝えることに注力をしたので、細部の工事指示は極限まで控えて、職人さんが工夫できるようにしました。その結果、一人ひとりがどうやったら温かみを表現できるだろうと考え、壁の素材を生かす、(これから工事をする)庭を照らすための照明を設置するなど、粋な配慮のもと、惜しみなく技術を提供してくれました。全員の連携がとれたチームワークを感じました」。
髙橋「部屋ごとにコンセプトがあるのですが、落ち着きと洗練されたモダンな印象を創り出すために工夫をしました。印象的なのは”ゲストハウス旅館相生”を構成する黄色です。明るくて素敵と褒めていただくことが多いですが、この黄色を塗った当時は「下塗り(基礎となる下地塗装)が綺麗にできましたね」といわれたくらい、調和がとれていない印象だったのです。もちろんそれは計算済みで、木の色、奥行きを出す居間を構成する3色のバランスを考え配色すると、一気に洗練された空間に昇華します。また、正方形の畳を用いることで遊び心が演出され、余った空間に木を配置することで統一感が出ます。こうした細かい工夫が随所に張り巡らされているんです」。
細部に宿る施工者の熱意が宿の魅力を一層引き立てています。「工事が大変だったでしょう。こんなに豪華になるんだね」。「歴史と新しさが1つの作品になっている」。リニューアルオープンした「ゲストハウス旅館相生」に来た人がこうした感想をくれるのも、職人さん1人ひとりの想いのもと成り立っているようです。
まるで異空間のような、今と向き合える時間
オーナー林さん「今回、髙橋さんや工事部の皆さんには素晴らしい空間を創っていただきました。戸倉上山田温泉は旅館が多く、高価格帯の宿も多いので気軽に長期滞在できる場所をつくりたいと考えていました。”ゲストハウス旅館相生”の横には”喫茶あもん”という昭和レトロな雰囲気がある喫茶店を併設していますので、タイムスリップしたようにゆったりと落ち着いた時間を過ごしてほしいです。
昔から旅人を見守ってきた建具や柱などを最大限に生かしながら、黄色を活用したモダンな配色を見事に融合させたセンスはさすがとしかいえません。これ以上ない空間を創り上げてくださった皆さんに感謝をしています。これから訪れる旅人の方々を迎え入れるのがとても楽しみです」。
髙橋「”ゲストハウス旅館相生”はくつろぐ、泊まる、知る、静まる、遊ぶ、つながる、広がる、話す、変わる、動くという、コトが起きるために必要なさまざまな要素が詰まっています。内覧会後に施工チーム、あたたかく見守ってくれている和かふぇよろづやチームと宿泊をさせていただきました。コンベンションルームでは未来について遅くまで話し合い、翌朝はチェックアウトのあとが名残惜しくなるほどくつろぎました。時間を旅できるような空間ができあがったと思いますので、是非皆さんも訪れていただきたいです。今回、つながりを紡ぐ旅館のスタートに携わらせていただき本当に幸せです。改めてありがとうございました」。
2024年の春「ゲストハウス旅館相生」が新たな姿をみせることになりました。完成したばかりの「ゲストハウス旅館相生」に訪れた一人ひとりがその空間の魅力を異なる角度から感じ取っています。それぞれの体験が、この宿の物語を豊かにしていき、過去と現在が交錯するこの空間で新しい物語を紡いでいくことでしょう。