背景

私は昔から古い建物が好きで、幼い頃は伝統建築や文化財の華美な建築物に関心を持っていました。ご縁があり社寺建築に携わることが増えている今、建物から伝わる作り手の思想や、眼差しに共感するようになり、古民家や社寺の案件に携わりたいと思い始めました。宮大工さんと打合せをしていると、多くを語らなくても心が研ぎ澄まされていると感じることが何度もあります。好きだからこそ、考えすぎる、自分と向き合う仕事でもありました。常に答えは多様であると信じ続け、完成まで携わった案件です。

設計・施工時のポイント

東京の歴史・暮らしの文化が残る貴重なエリアにたたずむ、幕末に造られたお寺にたたずむ山門の屋根替えをしました。
幕末から残る美しいデザインを生かしながら、できるだけ工法は最低限にとどめ、山門から本堂を見渡す空間を設計する、和空の美、引き算の美。時間の経過を感じる、連続する不揃いな千木(ちぎ)や垂木(たるき)の一本一本の反りはそのまま活かしました。
屋根に重量(テンション)がかかってしまう構造になることが否めないのが社寺建築、個の力量(経験とカン)への依存度が高い仕事です。
地震の多い日本で古来からの伝統建築を貫いていけるのは高度な構造設計が存在していたからで、意匠構造の精度設計まで棟梁、宮大工の領域だったことには驚きを隠せないです。
現代の建築常識ではたどり着けないかもしれない建築領域の神秘。その世界感に触れることのできる誇らしさと、仕事の領域を遥かに超えた古来からのメッセージを楽しんで仕事をさせてもらいました。

【都内某寺院の景観資源を活かす建築計画】
施工:鳶高橋
所在地:東京都日野市
タイプ:社寺建築、山門再生建築
建築物調査期間:2018.4~2018.5
改修工事期間:2018.10~2019.6
高橋慎治/建築プロデュース

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